7桁郵便番号に関する雑感

7桁郵便番号の基本哲学

 7桁郵便番号は「数字だけで住所を表現できる」ように 設計されていることになっている。 従って「地名から『何丁目』を除いた部分」が同じ地域に対して 番号が与えられている。
 重要なのは「地名の表現が同じ」であることであり、 その地名で表現される地域の面積は全く無関係である。 地域の面積は、地名を決定する場合に考慮するべき問題であって、 既に存在する地名に7桁郵便番号を割当てる場合には、 直接に考慮する必要は全く無い。
 また、宛先の実体に対して、7桁郵便番号が唯一に決定する必要も全く無い。 ある宛先に複数の住所表現法が考えられる場合には、 各々の表現法に対して、別の7桁郵便番号が与えられる。 唯一性の確保は住所表現を決めるに際して行うべきことであって、 7桁郵便番号の割当てに際して直接に考慮するべき問題ではない。
 7桁郵便番号とは、本来そういうものである。 この本質を無視した批判を少なからず見掛けるが、止めた方が良い。 批判する前に相手の本質をキチンと見極めよう。 筋違いの批判をしてしまわないために。

7桁郵便番号の適用例

 例えば、私の現住所は「滋賀県草津市平井1丁目」である。 平井には住居表示未実施の「平井町」のままの区域もある。 7桁郵便番号は「平井」と「平井町」に各々別に付与してある。
 将来、未実施地域に住居表示が実施されて「平井」の何丁目かになったら、 その時点で、その地域の7桁郵便番号は変わることになる。 新たに実施された地域に住んでいる人に郵便を出したいが、 新住所がわからず、古い住所表記で出すとしよう。 この場合は、古い7桁郵便番号を記載するのが正当なのだ。 つまり、このような人の住所には、新旧の住所表現に応じた 2種類の7桁郵便番号が存在するのである。
 東海道本線を京都駅から西へ進んで3駅目の「長岡京駅」の住所は 「京都府長岡京市神足(こうたり)2丁目」である。 (実は最近まで「神足駅」だったのを改称した駅である)
 ここには住居表示実施後の「神足n丁目」と 未実施の「(大字)神足」が併存している。 この場合は、見掛け上「神足」が完全一致しているので、 7桁郵便番号も同じになる。
 実際のところ、「神足n丁目」は旧「大字神足」の西端にあり、 その東に「東神足n丁目」があって、さらにその東に未実施地域がある。 つまり、「神足」は2つに分裂しているのだ。 7桁郵便番号地域としても、2つの連結成分に分離した地域である。
 全くの余談だが、神足の住居表示未実施地域は住宅急増地であり、 早晩住居表示を実施することになると思われる。 それにしても、一体どういう命名をするのだろう? 少しくらいなら「東神足」を広げれば済む話だが、 全部「東神足」にすると、あまりにも巨大になってしまう。 さあ、どうする?

7桁郵便番号の破綻例:小字必須地域

 長岡京市に隣接する向日市に目を向けてみよう。 ここは住居表示未実施で市内は6つの大字からなる。 というわけで、割当てられている7桁郵便番号も6種類である。
 ところが、実は向日市は「大字+番地」では住所を特定できないのである。 「大字+小字+番地」でなければならないのだ。 小字には7桁郵便番号を割当てていないから、 「数字だけで住所を表現できるようにする」という 7桁郵便番号の目標が達成されていないことになる!
 で、話は終わらない。今度は長岡京市から見て向日市と反対側、 淀川を隔てた八幡市に目を向けてみよう。 ここも小字が無いと住所を特定できないことでは同じである。 しかし、こちらは小字に7桁郵便番号を割当ててあるのだ! 同じ京都府内でこの差は一体何なのだろう?
 念のため補足しておくと、番地の振り方には 小字不要の流儀(大字単位で番地を通し番号にしている)を採用する場合と、 小字必須の流儀(小字毎に番地を独立に付与している)を採用する場合とがあり、 その分布は全国的に見てもグシャグシャに入り交じっているらしい。 小字不要の流儀の地域なら、そもそもこのような問題は起こらない。

7桁郵便番号の破綻例:京都市中心部の問題

 住居表示未実施地域では、7桁郵便番号は大字に付与されている。 その結果、「普通に使う住所」と7桁郵便番号が無関係になってしまった ことで有名なのが、京都市の中心部である。
 あまりにも有名なことなので、簡単な説明に留めるが、 京都市の中心部は「交差点名+方向(上ル、下ル、東入ル、西入ル)」で 住所を表現するのが一般的である。 大字を書く場合も「交差点名+方向」を併記するのが通例で、 大字だけで住所を書いた郵便物は、多分迷子になるだろう。
 さらに厄介なことに、「交差点名+方向」を使うのが普通であるがゆえに、 大字名の唯一性に無頓着だったようで、同名の大字が多数存在するのである。 同名だからといって遠く離れた大字に同じ7桁郵便番号を与えるわけにも行かず、 結果として7桁郵便番号簿が悲惨な状況になってしまった。
 何故ここまでして「大字」に固執したのか不思議である。 私なら7桁郵便番号を「交差点に付与」する。 下4桁を2桁+2桁に分離し、先行する2桁は 区内で「大字+小字+番地」を実用的に使っている地域や 大口事業所のために一部を留保した上で、数が少ない方の東西の通りに付与する。 後続する2桁は南北の通りに付与する。 番号の数は充分に足りそうに思えるのだが……
 念のため、交差点に付与する方式だと、 同一宛先に多数の7桁郵便番号が対応する場合がある。 基準とする交差点の選び方に任意性があるからである。 最も近い通りがマイナーな場合などには、 少し遠いメジャーな通りを基準に表現することも多い。
 しかし、7桁郵便番号としては、これは何ら問題にならない。 冒頭にも書いたように、住所表記が多様なら郵便番号も連動して多様になる、 それは7桁郵便番号の基本哲学の当然の帰結である。

7桁郵便番号の破綻例:京都以外で大字を使わない地域

 大字が実用的に使われていないのは、何も京都だけの話ではないらしい。 噂によると、別府などにも住所を大字で表記しない地域があるそうだ。 そういう地域でも問答無用で大字に7桁郵便番号を付与したため、 「普通に使う住所と7桁郵便番号が無関係」になってしまった。 郵便番号簿を見ても番号が検索できないのである。

何故ここまで悲惨になったのか

 破綻を来してまで大字に固執したのは、 役所の都合を優先した結果であるという説もある。 役所が地籍を管理するには、通りなどの生活実態に即した通称名よりも 大字を使う方が都合が良い。地籍管理しやすければ、住民管理にも好都合である。 住居表示制度が、 このような意味で役所に都合の良い地名を強制するために 悪用されてきたのは周知のことであろう。 7桁郵便番号も同じ路線の延長上にあるという考え方である。
 しかし、この説は穿ち過ぎであろうと思う。 むしろ、郵政省の研究不足・準備不足に原因を求める説を採りたい。 向日市と八幡市の差異という現象も、「準備不足」説を魅力的にしている。
 準備不足になった理由の1つに、導入スケジュールの問題があるようだ。 7桁郵便番号は、当初予定よりも2年ほど早く導入されたらしい。 急いだ理由は「景気対策」である。 新システム導入に伴う郵便局のシステム更新や、 民間における諸需要(住所のゴム印とか^_^;)の 「特需」を期待したというわけである。
 急げば当然「準備時間不足」に陥る。 そのために、じっくりした実態調査が必要な通称地名を全面排除して、 役所が持っているデータで簡単に全貌を把握できる 「大字」に固執したのではないだろうか。

ついでに:住居表示の「街区方式」と「道路方式」のこと

 住居表示実施によって古い地名が廃れてしまう理由としては、 役所が業務効率のために地名の数を減らしたがるということもあるだろう。 しかし、それよりも、元々「通り」に対して地名が充てられていたのに対して、 住居表示後の地名を「街区」に対して与えようとするために、 原理的に元の地名を保持できないということの方が大きいと思う。
 実は法律上は「通りに町名を与える方式(道路方式)」でも 住居表示が実施できることになっている。 しかし、現実に適用されている例は少ない。 山形県東根市の一部(神町駅東方1〜4kmあたりの地域)が 唯一の例だろうという情報もある。 おそらく、役所の重要な事務の1つである「土地の管理」が 煩雑になるので、役所が嫌がるという側面もあるだろうと思う。
 大阪市の西区で住居表示を実施する際に、元の町名をなるべく残して、 かつ街区に町名を与えようとした揚げ句、町の領域を半分ズラしたり 町を廃止して半分ずつ隣町に編入したりという暴挙をやらかしている。 流石に大顰蹙だったのだろう、その後に実施した東区(現中央区)の船場地域では 「道路方式」を採用した……と思ってたら、 実は違うという情報を、このページの2000年5月版を見た方からいただいた。 反則技(隣り合う道路の中間に存在する「住居等の背中を結んだライン」を 「道路等」と見なして、それを基準に街区を設定する)を使って、 「町丁の領域が道路方式的になる街区方式」を実現したらしい。
 いずれにしても、これは珍しい例である。 この方式でも「土地の管理」が厄介になることには変わり無く、 役所が嫌がる方法であることには違いないだろう。 「通りと密接に結びついたの町名」に対する愛着の 強い地域だからこそ実現したのかもしれない。
 滋賀県内でみても、大津も長浜も中心部の「道路方式町名」を全廃して 街区方式の単純な地名に変えてしまった。 あと、近江八幡が残っている。さて、どうなることやら。

1999年10月29日初稿/2001年1月8日最終改訂/2012年7月17日ホスト移転

戸田孝の雑学資料室へ戻る

Copyright © 1999-2001 by TODA, Takashi