日本人女子名の単純性

 皇太子に内親王誕生で「子のつく女性名」が少々話題になっているようですね。 ところで、男性名で「子」に対応するものってあるでしょうか。 皇族なら「仁」ですが、臣民一般(^_^;)には通用しません。

 実は、日本人の名前には男女間の命名に強い非対称性があります。 女子名の方がパターンが相当限定されているのです。 小学校高学年のとき、突如思いついて、人の名前のパターンを分類してみたことがあります。 級友たちの名前から始めて、新聞等で見かける有名人までどんどん広げて行ったのですが、女子名は簡単に分類できたのに男子名の分類は見事に失敗しました。 複雑すぎたのです。 その後新たに知己となった女性や新たに知った有名女性の名前も、細部を修正するのみで同様に分類していくことができました。 女子名がいかに単純に分類できるか、実際にお見せしましょう。

音節数の考察から導かれる原則

 まず「音節数」という言葉を俳句和歌における「文字数」の意味に用いることをお断りしておきます。 原則としてかな文字数ですが「ゃゅょ」は1音節と数えません。 「っ」は1音節に数えます。 専門的には「モーラ」と呼ぶようですし、印欧語の音節の概念との違いを明確にするため 「音節」という言葉を嫌って「拍」と呼ぶ人も居ます。

 以上の前提の上で、次のものを探してみてください。

(1)4音節以上の女子名
(2)2音節の女子名で、後に「子」をつけて別の女子名にできないもの
ほとんど無いことに気づくと思います。

 (1)の実例には2種類あって、 1つは「むらさき」など4音節の「ひとまとまりの言葉」です。 ただ、この名前には「舞踊などの伝統芸能のプロの名前」か「風俗営業用の源氏名」のように響く傾向があり、一般的ではありません。 もう1つは「3音節のひとまとまりの言葉」+「子」です。 「さくらこ」「かおるこ」などがありますが、非常に少数ですね。 個人的主観ですが、どうもこの名前は落ち着きません。 以上2種類以外の実例は私は見出していません。

 (2)の実例は私の知る限りでは「まこ」「みこ」など1音節の「漢字の音読み」+「子」というパターンのみであり、それほど多くはありません。

 次はどうでしょうか

(3)上述(2)に該当しない2音節の女子名で、「ひとまとまりの言葉」とは解釈できないもの
例えば「えみ」という名前は「え」という言葉に「み」という語尾がついたものとも解釈できますが、「えみ」という言葉(笑み)とも解釈できますから、該当しません。 これに該当する実例は私は見出していません。

 このようにして、次の仮説が得られました。

日本人の典型的な女子名は、該当事例が少数である例外、即ち を除くと、次の3パターンに分類できる。 なお、「ひとまとまりの言葉」とは原則として「意味のある言葉」であるが、語感的に「意味があっても良さそうな言葉」、つまり「意味のある言葉と語感の似た文字列」も含まれる。

予想される反論への再反論

 早速反論があるかもしれませんね。 「早苗」「美苗」「真弓」「香澄」などは「1音節+2音節」ではないかと。 前もって再反論しておきましょう。

 まず「早苗」「香澄」は「3音節のひとまとまりの言葉」です (「香澄」は字を無視して「かすみ」つまり「霞」と解釈します)。 そして「美苗」「真弓」などは

字を無視すれば2音節+1音節と解釈できる
ものです。 同じ音で「皆恵」「眉美」などという字の充て方も可能ですよね。 というわけで、これらは広い意味で
2音節の「ひとまとまりの言葉」+1音節の語尾
に含まれると考えることにします。 そして、以上の考え方を適用しても、なお「1音節+2音節」である事例は、今のところ見出していません。

語尾の分類

さて、次に

2音節の「ひとまとまりの言葉」+1音節の語尾
における「語尾」は、1980年ごろには次の5種しか見出せませんでした。
「こ」「み」「よ」「え(ゑ)」「か」

 このうち「か」は比較的新しいものです。 「はるか」「まどか」「ほのか」などは古くからある名前ですが、これらは

3音節の「ひとまとまりの言葉」
と解釈できるものです。 つまり、「か」という語尾は、元々は形容動詞の語幹末に頻出する「か」だったと考えられます。 しかし、名前の「末尾の文字」として普及するとともに本来の出自が忘れられ、単なる「語尾」として使われるようになったのでしょう。 「み」「よ」「え(ゑ)」も元々はその類だった可能性が高いと思われますし、将来的には同様の「語尾」が増えていくでしょう。 1980年ごろには「り」が語尾として普及していく可能性が高いだろうと予想したのですが、その後の状況を見ていると、むしろ「な」の方が早く普及しているようです。

男子名との比較

 これに較べて男子名はどうかというと、まず音節数について考えると、

4音節が普通で、5音節以上も珍しくない
ということが判ります。 このことだけとっても、対数比で4:3だけ多く、女子名よりもバラエティに富んでいること結論できます。

 さらに、女子名が「2音節+語尾」を基本とするのに対して、男子名は

2音節の「ひとまとまりの言葉」2個の組み合わせ
というパターンが普通に使われます。 そうなると、その差は対数比で2:1にまで広がりますね。

 実際やってみると解りますが、男子名の分類は一筋縄では行きません。 「1音節の語尾」も「2音節の語尾」も沢山あるように思うかもしれませんが、「語尾」なのか「ひとまとまりの言葉」なのか微妙なものが次々出てきて、手に負えなくなってしまいます。


2001年12月17日WWW公開用初稿/2011年9月8日最終更新/2012年7月17日ホスト移転

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