「金田一耕助もの」各シリーズの警部

 金田一耕助登場作品では、相棒の警察幹部が重要なキャラクタである。 映像化作品での警察幹部を見てみると、シリーズごとに設定がいろいろ特徴的なのが面白い。

原作

 原作では事件発生地に応じて異なる警察幹部が登場しており、警察の管轄が非現実的なことになってはいない。 例えば、多くの作品に登場する岡山県警の磯川警部と東京警視庁の等々力警部は、基本的に各々の管轄での事件で登場している。

 磯川警部が東京の事件に関わる事例もあるが、金田一の依頼で東京の事件に関連する岡山県での事実関係を調査した事例(悪魔が来りて笛を吹く)と、東京の事件に関連する岡山県での未解決事件について情報提供し捜査協力した事例(堕ちたる天女)のみである。 なお、作者の死去により構想のみとなった「千社札殺人事件」でも関わりが予定されていたようである。

 等々力警部が軽井沢の事件に関わる事例は、いずれも休暇中に事件に巻き込まれている。 事件関係者が東京で関与した事件の関係者であることに気付き、部下を呼び寄せて現地警察と情報交換させる(香水心中)、金田一の探索につきあうが、結果を現地警察に報告して自分は帰ってしまう(霧の山荘)、東京で担当した事件の関係者に往路で遭遇して警察関係者だと気付かれずに同道し、そのあとその東京での事件で関わった現地の刑事を訪ね、結局その東京での事件に関連が深かった現地での事件に巻き込まれる(仮面舞踏会)というような関わり方をしている。

 また、等々力警部は房総半島と思われる海水浴場でも事件に巻き込まれており(鏡が浦の殺人、傘の中の女、赤の中の女)、やはり当事者として現地警察に協力する立場で関わっている。

 金田一と長野県警との関係は「犬神家の一族」から始まっている。 このとき関わった橘署長とは「廃園の鬼」でも関わっているし、このときの名声は上述の軽井沢の警察関係者や「不死蝶」の神崎署長と出会ったときにも役立っている。

 「女王蜂」は伊豆と東京に跨っており、東京では等々力警部が関わっているが、伊豆では静岡県警と関わっている。 このときの名声は「迷路荘の惨劇」で静岡県警富士署に関わったときや「幽霊男」で事件の舞台が途中で伊豆半島へ移動したときに役立っている。 「華やかな野獣」の神尾警部補は「女王蜂」事件の捜査に参加していたため当初から金田一に協力的であったが、静岡県警の刑事が何故神奈川県警の警部補になっていたかは説明されていない。

片岡千恵蔵版

 原作通りの警察幹部が登場する。 同一人物を作品によって異なる俳優が演じている事例はあるが、同一俳優が異なる警察幹部を演じている事例は無い。

市川崑監督版

 市川崑監督による石坂浩二版および豊川悦司版に登場する警察幹部は「同一俳優が同一キャラクタで演じる別人」である。 警察幹部に限らず、このシリーズには同一俳優が作品ごとに別人を演じている事例が多いが、加藤武が第1作「犬神家の一族」で演じた橘署長については、好評だったらしく同一キャラクタが以後の作品でも継続された。

 第2作「悪魔の子守唄」では原作通りに立花捜査主任(ただし警部補ではなく警部)とし、第3作「獄門島」では原作と異なる等々力警部として登場した。 これは、名前を変えることで「別人」であることを維持しようとする意図であった(「悪魔の子守唄」では立花捜査主任と別に磯川警部も登場するため)と考えられる。

 しかし、第4作「女王蜂」以降では、このキャラクタが定着したと判断したのか「等々力という同じ名前だが別人」ということになった。 「犬神家の一族」のリメイクに至っては、わざわざ「等々力署長」に変えている。 なお、石坂浩二版の「リメイクでない最終」となった第5作「病院坂の首縊りの家」には、等々力警部が金田一について「初対面のはずだが、どこかで会ったような気がする」という趣旨の発言をするネタがある。

古谷一行連続ドラマ版

 第1作「犬神家の一族」では原作通り橘署長が登場した。 第2作「本陣殺人事件」で磯川警部を日和警部に変え、第3作「三つ首塔」ではその日和が警視庁の警部として登場して金田一に対して「栄転じゃ」と説明し、第4作「悪魔が来りて笛を吹く」でも引き続き登場した。 第5作「獄門島」は原作通り磯川警部が登場した。 以上、異なる人物は全て異なる俳優が演じている。

 しかし、第1シリーズ最終作の第6作「悪魔の手毬唄」で日和が再び岡山県警の警部として登場し、そのことに対して何の説明もしていない。 時間を遡らせたと考えられなくもないが、「悪魔の手毬唄」の終わり方は金田一と日和がしばらく出会わないような演出になっており、整合しない。

 長門勇が演じる日和警部は好評だったようで、第2シリーズでは全作品に登場した。 長野県や静岡県も含めた各地の事件に登場し、しかも静岡県では「迷路荘の惨劇」事件の背景となる過去の事件に若き日の日和が関わったことになっている。 この不自然な「移籍」を合理的に説明しようとはしていない。

 なお、第1シリーズの東京での事件「三つ首塔」「悪魔が来りて笛を吹く」は原作では等々力警部が登場するが、本シリーズでは日和警部の部下で等々力という刑事が登場する。

古谷一行2時間ドラマ版

 第1作「本陣殺人事件」は連続ドラマ版第2作のリメイクであり、磯川警部を日和警部に変えたことも継承している。 そして、この第1作で出会った設定のハナ肇が演じる日和警部が金田一の相棒として登場し続ける。 第4作「霧の山荘」で俳優はハナ肇のまま等々力警部に変わり、第7作「不死蝶」で矢崎滋が演じる神崎警部(原作の署長から変更)となったことを例外として、第18作「迷路の花嫁」まで継続した。 ハナ肇の死去に伴い、第19作「女王蜂」で中継ぎ的に名古屋章が演じる亀山警部、第20作「悪魔の唇」からは谷啓が演じる河合警部となって最後の第32作「神隠し真珠郎」まで継続した。 等々力警部や河合警部は初登場時点から金田一と親しい関係である。

 ところが、日和警部・等々力警部・河合警部とも、どこで起こった事件であっても登場する。 しかも所属が明白に警視庁であったり岡山県警であったりしており、この不自然な「移籍」を合理的に説明しようとしている形跡は認められない。 なおかつ、金田一と警部とのやりとりには過去の作品を前提にしているものが多く、前作と同一人物という設定と考えざるを得ない。 要するに、警部の所属に関して合理的な説明ができることを放棄しているのである。

 このシリーズは舞台を京都近辺(琵琶湖も含む)に変更している作品が多いが、その場合には警部は京都府警の所属になっている。 第31作「白蝋の死美人」の舞台は鎌倉であり、河合警部の所属は神奈川県警と考えざるを得ない。 途中で東京で起こった事件の際に金田一の身元確認のために地元警察に呼び出された状況も「客人」扱いである。 この作品では、第29作「水神村伝説殺人事件」から加わった部下の宮村巡査も併せて「移籍」している。

 ただし、警部が管轄外で活動しているという設定の作品が無いわけではない。 第2作「ミイラの花嫁」第10作「薔薇王」第18作「迷路の花嫁」では日和警部や等々力警部が京都府警の立場で琵琶湖畔や出石へ捜査に行っている。 第5作「死仮面」は「主として東京での事件であるが端緒となったデスマスクは岡山で発見された」という原作の設定を維持していて、デスマスクを鑑定のために東京へ持ってきた岡山県警の等々力警部が金田一に見せて意見を求める設定になっており、等々力は東京に断続的に長期滞在している。 第4作「霧の山荘」第9作「死神の矢」では警視庁や京都府警の等々力警部が金田一と共に休暇で来ていた軽井沢や琵琶湖畔で事件に遭遇し、現地警察に協力している。 第6作「香水心中」(舞台を伊豆に変更)では、金田一が請けた依頼に関連する被害者だったため、同行して休暇で来ていた警視庁の等々力警部が現地の警察に申し出て捜査に協力する展開になっている。 また、第11作「悪魔の手毬唄」は原作通り岡山県警の磯川警部が金田一の主たる相棒だが、警視庁の等々力警部も磯川警部に岡山県の現場へ呼ばれ、到着するたびに東京から呼び戻されて落ち着くことができない設定になっている。

片岡鶴太郎版

 第4作「悪魔の手毬唄」まで原作に磯川警部が登場する「岡山もの」しか扱っておらず、金田一と磯川のやりとりは前作を前提とした演出になっている。 演じた加藤武は市川崑監督版で各作品ごと「別人」を演じているが、こちらのシリーズでは設定上同一人物である。

 そして、第5作「犬神家の一族」以降は岡山県の事件に変更しており(第6作「八つ墓村」は元々岡山ものなので「変更」はしていない)、いずれにも磯川警部が登場する。 つまり、警部をあちこち「移籍」させるのではなく、逆に事件の方を岡山県に集めたわけである。 このため、第8作「悪魔が来りて笛を吹く」で旧華族の本宅が岡山県の片田舎にあるという制度上有り得ない設定になったりもしている。

 但し、第7作「女怪」は原作通りに主に東京での事件としている。 メインの原作では警察関係者に重要な役割が無く、サブの原作(霧の中の女)に等々力警部が登場するが、これを等々力警部が事件全体を担当する形に変更し、金田一は磯川警部の紹介状を持って等々力警部の元に乗り込む設定になっている。 さらに、事件の前提となる墓荒らしを原作の伊豆から岡山県に変更し、流石に磯川警部は登場させていないが、顔見知りの岡山県警の刑事が登場している。

 なお、このシリーズでも同一俳優が作品ごとに別人を演じている事例が多いが、金田一以外の同一人物を一貫して演じたのは加藤武の磯川警部のみである(牧瀬里穂が磯川の娘・八千代を最後の2作で続けて演じているが、それ以前では登場する作品ごとに異なる人物を演じている)。

上川隆也版

 2作しか無いが、2作目の「獄門島」では、1作目の「迷路荘の惨劇」に登場した等々力警部が、東京から逃げてきて海賊に加わっていた殺人犯を追いかけて獄門島に現れている。 最後には犯人を地元警察に引き渡しているものの、それまでは事件全体の捜査を実質的に仕切っていて地元警察の組織的関与は認められず、島の駐在警察官にも直接指示を出すという妙な状況になっている。

稲垣吾郎版

 第1作「犬神家の一族」で原作通りに登場した橘署長が、その後も転勤先で事件に関わり続けている。 但し、最終作となった第5作「悪魔の手毬唄」では第2作「八つ墓村」以来の岡山県警に戻ってきているが、転勤についての説明は特に無い。 また、磯川警部が青池リカに恋して世話を焼いていたという原作の設定をそのまま橘署長に置き換えており、転勤族であるハズの橘署長が何故そういう状況を続けることができたかは説明されていない。

 現実の警察組織でも警察庁本庁採用のキャリア警察官が各地へ転勤するのは普通のことであるが、初任時の実務研修を除いて管理職が原則であり、個々の事件に直接関わるような現場に配属されることは少ない。

NHK-BS版

 NHK-BSの長谷川博己版および吉岡秀隆版では原作通りに磯川警部と等々力警部が登場する。 等々力警部は今のところ「悪魔が来りて笛を吹く」にしか登場していないが、磯川警部は「獄門島」と「八つ墓村」で同じ俳優が演じている。 なお、いずれも原作通り事件以前から金田一と親しい関係という設定である。

加藤シゲアキ版

 今のところ2作しか無く、双方に共通して登場する警察幹部は無いが、第1作「犬神家の一族」に登場した橘署長が好評だったため、第2作「悪魔の手毬唄」にも同一俳優を「同一キャラクタのそっくりさんだが別人」として登場させた。 原作の立花警部補に相当する人物だが、同じ「たちばな」という発音では科白回しが理解困難になると考えたのか、「立原警部補」に変更している。

まとめ

原作・片岡千恵蔵版・NHK-BS版
事件発生地に応じて異なる警察幹部が登場している。映像作品では俳優も異なっている。
市川崑監督版
「同一俳優が同一キャラクタで演じる別人」である。当初は原作通りの名前だったが、途中から「等々力」に統一された。
古谷一行連続ドラマ版
当初は原作通りの警察幹部も登場したが、途中から「日和警部」に統一された。当初は移籍事情を説明しようとしていたが、途中から説明を放棄した。
古谷一行2時間ドラマ版
放映時期ごとに同一人物としか思えない警部が続けて登場するが、不自然な「移籍」を説明しようとしていない。
片岡鶴太郎版
原則として事件を岡山県に集め、「岡山県警の磯川警部」が全作を通して(東京の事件では名前だけ)登場する。
上川隆也版
等々力警部が「犯人を追いかけて」管轄外に現れ、場を仕切っている。
稲垣吾郎版
「橘署長」が転勤先で事件に関わり続けている。
加藤シゲアキ版
事件発生地に応じて異なる警察幹部が登場しているが、同一俳優が演じる「そっくりの別人」というネタがある。

2020年3月19日初稿/2020年4月9日最終改訂

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