高校数学でできる二次曲線の線形代数

 この文書は、元々は、筆者が大学院生で 出身高校の吹奏楽部に頻繁に顔を出していた1988年3月に、 「ちょっとデキる生意気な後輩」にやらせてみようと思って書いてみたものである。 元々は当時の低機能なワードプロセッサソフトで書いて、 行列の括弧等は印刷後に手書きで書き足していたのだが、 1989年12月にTeX(LaTEXではなく Plain TEX)で書き替えてみた。 その出力を加工して行列表現のみを画像として抽出し、 その他は単なるHTMLとして書き直したのが本稿である。 20年近くも放置していたのを突然公開したのには特に理由は無く、 単に行列表現を画像として抽出する作業が、 画像処理ソフトの使い勝手を試すサンプルに丁度良かったからに過ぎない。

 一応「高校数学でできる」とは銘打っているのは、 必要な「予備知識」が高校数学で扱うレベルの内容だという意味である。 話の流れを理解するために予め知っておいたら「便利」な概念は 大学理工系の1年目で履修する線形代数で扱うものであり、高校では扱わない。 従って、普通の高校生では話の流れに見通しが立たないであろう。 しかし、そのような「概念」は力のある高校生なら 自力で見出すことができるだろうと思う。


「2次曲線」という言葉の本来の意味は、2次式

ax2 + bxy + cy2 + dx + ey + f = 0     …… (1)
で表現できる曲線という意味である。 高校のレベルではそのうちの極めて特殊なものしか扱わないが、 実は平面上の2次曲線は、少数の例外を除いて 高校で扱う形の楕円、放物線、双曲線のうちの何れかに合同である。 ここで「少数の例外」とは例えば、
x2 - y2 = 0 :( x - y ) ( x + y ) = 0 と因数分解すればわかるように 2直線の合併集合
x2 + y2 = -1 :空集合
のように、曲線の記述の為に本質的に2次式が必要でないものである。

A)

以上の事を次の手順で証明せよ。

1)

2次曲線
px2 + qy2 + rx + sy + t = 0     …… (2)
を原点の回りにθだけ回転させて得られる曲線の方程式を求めよ。

2)

任意の2次曲線は原点の回りの適当な回転によって (2)の形の曲線になることを示せ。 (ヒント:「任意の2次曲線」とは、即ち(1)式で表わされる曲線である)

3)

(2)式で表わされる種々の曲線を、 p, q が0であるかどうかで分類したうえ、 各々適当な平行移動によって項の数を減らすことによって、 係数の値がどのような場合にどのような曲線になるか考察せよ。

B)

(1)式が楕円、放物線、双曲線のうちの何れかであることがわかっているとき、 この3つのうちの何れになるかは2次の係数 a , b , c のみで決まることを示せ。 また、判定条件を求めよ。 (ヒント:まず p , q で判定条件を考えよ。)

C)

(この設問は大学1回生レベルだが、 落ち着いて考えれば高校の知識で充分できる)

1)

2×2行列 T = $\pmatrix{\alpha & \beta \cr \gamma & \delta \cr}$に対して、 その成分が対角線について対称な行列 $\pmatrix{\alpha & \gamma \cr \beta & \delta \cr}$ のことを T の転置行列と呼び、 tT と書く。 縦ベクトルの一次変換を表す行列がTであるとき、 横ベクトルに対して同じ一次変換を与える行列が tT であることを示せ。

2)

tT の行列式(行列の判別式)は T のそれに等しいことを示せ。

3)

横ベクトル tv = $(x,y)$ 、 2×2行列 P = $\pmatrix{a & b/2 \cr b/2 & c \cr}$ 、 縦ベクトル v = $\pmatrix{x \cr y \cr}$ の積で (1)式の2次の部分を表現できることを示せ。 また、(1)式全体を行列を使って書き換えよ。
注1tv は1×2行列であると考えることができ、 それは2×1行列 v の転置行列と考えることができるので、 2×2行列の転置行列と同じ記号を用いた。
注2:このような場合、 $\pmatrix{\alpha & \beta \cr \gamma & \delta \cr}$ のような表現を残しては、 行列の記法を用いる意味が半減する。 v 、 P のような記号を必要なだけ定義し、 その記号のみで表現するのがよい。

4)

B)で求めた判定条件を行列の言葉で言い換えよ。

5)

一次変換 f が逆変換を持つということは、 直線が必ず直線になるという素直な一次変換であることを意味する。 このことを「 f は正則である」と表現する。 正則な一次変換によって2次曲線がどのように変形されるかを 3)の結果を利用して考察せよ。 (ヒント:変換後の座標を成分とする v に相当するベクトルを定義し、 転置行列の概念も利用して変換後の曲線の式を、行列を使って表現する。 行列 P 等が整式の係数に相当することに注意。)

6)

A)で求めた分類は正則一次変換に対して不変(つまり、 放物線に正則一次変換を施してもやはり放物線etc.)であることを示せ。 (ヒント:まず「少数の例外」について一次変換の幾何学的性質を使って証明し、 残りは4)の結果を使う。)

2007年8月31日WWW公開用初稿/2008年1月26日字句修正(検索語彙対応)/2011年1月3日METAタグ追加/2014年11月30日ホスト移転

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