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インターネットブームも一段落し、日常社会生活の種々の場面でのインターネット利用が普及してきている。 これに伴って、インターネット接続環境を有する者と有さない者との間で、享受できる社会サービスに質量とも深刻な差が生ずるという、いわゆる「情報格差(デジタルディバイド)」の問題が持ち上がってきている。
博物館業界でも、数年前までは一部の「先進的」な館のみがインターネットを利用する状況であったが、現在ではインターネットWebページ(WWWページ)を運営して情報発信を行うのは、比較的規模の大きい館ならば当たり前という状況になっている。 その一方で、館の数としては多数の、いわゆる「中小館」で充分な情報発信を行っているのはまだ少数であり、博物館同志での情報発信環境における「情報格差」が生じてきているように見受けられる。 しかし、その「情報格差」の実態は必ずしも詳らかではない。
博物館が行っているインターネット情報発信の実態を網羅的に調べたものとしては、柴・石橋(1998a,1998b)の前提となった全国調査(詳細未公表)がある。 その基礎となった博物館住所録(追加更新されて、インターネット上で公開されている)によると、例えば滋賀県内では51館となっている。 ところが、実際には県内には滋賀県博物館協議会加盟館だけで85館あり、相当数の漏れがあると考えられる。 これは、日本博物館協会などの全国組織の名簿を基礎にリストアップしたために、このような全国組織に加盟しない館がどうしても脱落する結果となるのであろう。 「情報格差」について論ずるには、このような「アナログ情報の段階で既に取り残されやすい」立場にある館にも目を向けることが必須である。
そこで本研究では、滋賀県内を例にとって、全国組織の名簿では漏れが生ずるとの前提に立った博物館のリストアップを行ったうえで、「先進的」な発信を行っていない館に主眼をおいて各館のインターネット情報発信の実態を明らかにする。
本研究では、滋賀県内に所在する、以下の5つの条件のうちのいずれか1つでも満たす館を対象とした。 選定は、2000年6月10日ごろから始めていた予備調査に基づいて、2000年8月15日から19日にかけて実施した。
このうち4.5.では「博物館機能を有する」という部分が主観的判断になるが、1.2.3.で選定される施設とのバランスを考慮し、公表されている施設概要などに基づいて以下の判断基準で選定した。
以上の条件で選定された対象館は180館となった。 分館や関連施設などで運営主体が同じで連携した運営が認められるものは、合わせて1館と計上した。別と数えると20館増える。 なお、滋賀県博協未加盟95館の一覧表をhttp://www.lbm.go.jp/toda/museums/unjoined.htmlで公開している。 なお、この対象館には県内の以下の館が全て含まれる。
以上によって選定された各館について、以下の代表的な3つ(実質的には4つ)の検索エンジンを利用して、その館の概要が判明するページを検索した。
これに、県の機関や市町村(観光協会や商工会などを含む)が インターネット上で公開している「観光情報」や「施設情報」で 上記の検索エンジンから漏れたものを加えて、 各々の館について最も確実で詳細な情報が得られるページを選定した。 この選定作業は、2000年8月19日から8月30日までにかけて実施した。そして、選定したページの情報内容について「各館の意思が迅速かつ的確に反映されているかどうか」という観点に基づいて評価を試みたところ、下記の情報発信レベルに分類できた。
(A) | 展示内容の詳細な解説や、具体的な利用案内はもとより、イベント情報も適切に更新されており、質問受付用のメールアドレス公開や特集記事の連載、データベース公開など、「教育普及」「調査研究」などに属する活動を展開している(19館) |
(A') | 頻繁な更新を必要とする情報こそ無いものの、「教育普及」に属する活動を展開している(1館) |
(B) | イベント情報など頻繁な更新を必要とする情報が、実際に適切に更新されている形跡がある(20館) |
(C) | 頻繁な更新を必要とする情報こそ無いものの、展示の詳細な解説や具体的な利用案内が含まれている(33館) |
(D) | 展示概要の簡単な紹介と連絡先の提示に留まっており、利用案内は無いか、あっても2行以内で記述できる程度でしかない(75館) |
(E) | 関連する史跡等の解説の中で、ついでにコメントされているのみ(4館) |
(F) | 博物館側の立場に立った情報は住所録情報以外には発信されておらず、利用者側の立場に立った「訪問記」などの情報のみである(4館) |
(G) | 住所録情報しかない(15館) |
(H) | 滋賀県博協の住所録ページ以外にはインターネット上に当該館の情報(行政情報の中で館名だけ挙げられている例など利用に役立たないものを除く)が見出されない(9館) |
いわゆる「WWWページを自ら運営している」館は、URL(アドレス)から判断すると19館となるが、そのうち14館がレベル(A)(A')に属する。 他の4館はレベル(B)であるが、1館については、館独自にプロバイダと契約してWWWページを作成したものの、その後の更新が適切に行われず、レベル(C)に留まっている。
レベル(A)の情報発信を、館関係者が個人的に運営している例(冷水寺胎内仏資料館)や、公式には無関係な個人のページを館が「公認」して必要な情報を提供している例(国友鉄砲の里資料館)もある。 このような例では、実際運営者との協力関係が維持できるかどうかに運営が依存するという脆弱さがあるが、関係が維持できる限りにおいては充分な情報発信が継続できるであろう。 なお、館がWWWページの企画運営を外部の業者に業務として委託している例(甲賀流忍術屋敷)については、館自体が財政的に困窮しない限りは業者との関係が継続できるはずであるから、館独自にページを運営しているのと本質的に変わりが無い。
レベル(C)(D)のうち約半数(14館、38館)は、所在市町村の観光情報の一環として、市町村または観光協会や商工会のページで紹介されているものである。 一方、市町村のページの中でレベル(A)を実現しているのが3館、レベル(B)が13館認められた。 このことは、設置市町村の事業の中での位置付け次第では、「市町村のページ」の中で充分な情報発信ができる可能性を示している。 もちろん、これには館の意思が迅速かつ的確にページに反映される体制の整備が不可欠であり、柴・石橋(1998b)が既に指摘しているように、現状の市町村の業務体制の中では困難となりがちである。
レベル(C)の中には、県の事業(例えば農政課の農山村振興事業)として整備した地域情報や、1〜3郡程度の地域の市町村が集まって整備した情報(国の補助制度を利用していることが多い)が5館あった。 このような事業は一過性のものであることが多く、今後の情報更新が適切に行われるかどうか少々不安である。 各市町村の日常業務にうまく引き継げるかどうかが、今後の発展への鍵となるだろう。
レベル(D)には、県の観光連盟が公開している観光情報として紹介されている情報が24館、レベル(C)には県生涯学習課の学習情報システムに登録されている情報が6館あった。 このようなケースでは、情報発信の形態上、定形フォーマットに納まる形での発信しかできず、今後の発展は期待しづらい。
レベル(C)や(D)の中には、館とは直接関係の無い企業や郵便局などが収集整備した地域情報が6館、設立に関与した展示業者の事例紹介という形での情報が2館あった。 また、新聞社が公開している「開館を報道する新聞記事」が4館あった。 これらは、単発的な情報発信としては比較的高いレベルに達し得るものであるが、今後の適切な情報更新や、より高いレベルへの発展という意味では、期待しづらい。
本研究でレベル(A)に分類した、いわゆる「先進的」な発信を行っている館を除けば、博物館に関する情報発信の多くが県や市町村などの「観光情報・施設情報」という形で行われているという実態が浮かび上がってきた。 しかも、そのうち市町村を介した情報発信は、市町村の政策次第で、かなりのレベルにまで達し得ることも明らかとなった。
実際、滋賀県下50市町村のうち、既に30市町村が、役場の部署が内容を管理するいわゆる「公式ページ」を有しており、観光協会・商工会のページや町立博物館のページが公式ページの代替機能を果している例も含めると44市町村に達する。 このような市町村ページの広がりが「ほとんどの館に関する情報がインターネット上にとにかく存在する」状況を作り出していることは確かである。
しかし、将来にわたって市町村ページに頼っていては、よりレベルの高い情報発信は困難であろう。 市町村立館でも柴・石橋(1998b)が指摘しているような管理体制の問題があるし、「単に市町村に存在する」だけの私立館が充分な情報発信を行えるようにすることは制度的にも無理がある。
市町村立館で、イベント情報などが市町村の業務として適切に更新されることが期待されるのは、博物館活動自体が市町村の一般政策の流れの中にある館の場合である。 裏を返せば、活発に独自の活動を進めている館であればあるほど、市町村ページの中での情報発信では限界が深刻化する結果となる。
独自にページを運営できない館への対応として、日本科学博物館協議会や全国動物園水族館協会が加盟館を代理して情報発信を行う事業を進めている。 滋賀県博協でも、一昨年度に文部省委嘱事業で編集出版した「加盟全館を各々カラー2ページで紹介する」書籍を元に、加盟全館を詳細に紹介するページを整備している(2001年3月公開)。
ところが、このような事業には運営上の問題点がある。 例えば、滋賀県博協ではページ内容を定期的に紙に印刷して各館の修正を求める予定であるが、館数と事務局の陣容(琵琶湖博物館が担当し、専任者は居ない)から考えて年1回が限界である。 これではイベント情報の掲載は無理であり、将来的な発展は望めない。 かといって、各館が自らページを更新できる体制を作ったとしても、それを利用できる技術がある館なら独自にプロバイダと契約してページを持つことは容易である。 即ち、単なる「加盟館相手の無料プロバイダ」以上のものではなく、「情報格差」の解消にはあまり役立たない。
このような限界はあるものの、一時的な「場つなぎ」として、市町村のページ整備に期待し、あるいは(イベント情報は当面断念して)滋賀県博協が行おうとしているような代理発信の事業を進めることは有効であろう。 このような事業は、当面の「情報格差」をとりあえず解消し、インターネット情報発信の有効性を現場に認識させる「動機づけ」として作用することが期待されるからである。 「動機づけ」に成功すれば、各館が独自に、または館外協力者を巻き込んで、自ら発信する能力を身につけるという「根本的な解決」は近いと思われる。