課題曲「フェリスタス」の誤植
全日本吹奏楽コンクールの毎年の課題曲の中には、十年以上経ってもなお人気が衰えない曲がある。
しかし、コンクールの課題曲は吹奏楽連盟がその年限りの流通を前提に出版するのが基本であり、年を経るごとに楽譜が入手困難になってしまう。
そのような曲の一部については、後年になって楽譜が別の出版社から改めて出版されることがある。
1979年度課題曲の「フェリスタス」(青木進)もそのような曲の1つで、2018年にムジカ・エテルナから出版された。
曲によっては、課題曲ゆえの演奏時間などの制限を外したバージョンに改作されたものが出版される場合もあるが、この曲については基本的に元のバージョンそのままのようである。
ところがこの新版には「誤植だらけ」という困った問題がある。
誤植といっても、音符の位置が違っているというような問題はどうやら無さそうで、アーティキュレーションなどの記号類の脱落や誤記が大量に存在している。
電子データ段階での「入力ミス」による誤りであるらしく、スコアとパート譜が常に同じように誤っていて食い違いは起こっていないようである。
以下に具体的に列挙していく。
いずれも、コンクールの課題曲として出版されたものの内容を正しいと仮定しての記述であるが、内容を考えてもそれが正当と思われる。
タイの脱落
誤植の中で特に深刻なのが「タイの脱落(タイがつながっていない)」という誤りである。
いずれもスコアのページを跨るタイが切れているので、同じ原因による入力ミスである可能性が高い。
楽曲が「変わってしまう」誤りなので、この楽譜を使用する際には何よりまずこれを訂正することを強くお勧めする。
- 練習番号[1]の1小節目、Hrns.の1stおよび3rd:2拍目の付点2分音符から次の小節の4分音符へタイでつなぐのが正当
- 練習番号[3]の1小節目、Hrns.(4パートとも):全音符から次の小節の全音符へタイでつないで、併せて3小節間のロングトーンとするのが正当
- 練習番号[5]の1小節目、Bsn.およびT.Sax.:3拍目の2分音符から次の小節の4分音符へタイでつなぐのが正当
- 練習番号[7]の1小節目、打楽器以外の全パート:全音符から次の小節の8分音符(一部のパートは2分音符や全音符)へタイでつなぐのが正当
スラーの脱落
タイでないスラーが脱落している(つながっていない)事例もある。
明らかに誤りと考えられる。
- 練習番号[1]の1小節目、A.Saxs.(2パートとも):前の小節の4拍目(8分音符2個)からスラーを始めるのが正当
- 練習番号[2]の1小節目、Cl.の1stおよび2nd:前の小節の4拍目(8分音符2個)から次の小節の最初の付点2分音符までスラーでつなぐのが正当
- 練習番号[2]の6小節目、Bsn.:3拍目裏の8分音符から次の小節の2分音符までスラーでつなぐ(B.Cl.やB.Sax.と同じになる)のが正当
速度記号の脱落
これも楽曲が「変わってしまう」誤りなので、まず訂正することを強くお勧めする。
アーティキュレーションの書き間違い
直後(あるいは他パート)と同じアーティキュレーションが正当なところ、直前と同じアーティキュレーションに書いてしまった誤りと考えられる。
- 練習番号[9]の1小節目、Trp.の1stおよび2nd:2つの2分音符についているテヌートはいずれもアクセントが正当
強弱記号の脱落
単純な書き落としと思われる。
- 練習番号[3]の3小節目、Hrns.(4パートとも):1小節かけて松葉のクレッシェンド、次の小節の冒頭でf
- 練習番号[11]の2小節目、Tuba、Str.Bass.:冒頭でff
- 練習番号[11]の4小節目、1stPerc.:冒頭でfff(Timp.と同じになる)
強弱記号書き直しの省略
元のバージョンで直前と同じ強弱記号を書き直してあるところを書き直していない例が多々ある。
意図的に省略した可能性も考えられるが、いずれも書き直すことに意味があると考えられる部分である。
- 練習番号[2]の2小節目、Cl.(3パートとも)、A.Cl.、Trp.の1stおよび2nd:4拍目で改めてf
- 練習番号[3]の9小節目([4]の2小節前)、Bsn.、B.Cl.、B.Sax.:冒頭で改めてff
- 練習番号[4]の10小節目([5]の1小節前)、A.Cl.:冒頭で改めてmp(A.Saxs.と同じになる)
- 練習番号[6]の6小節目、Euph.以外の全金管およびStr.Bass.:冒頭で改めてf
- 練習番号[9]の5小節目、ffを書いていない全パート:最初の音で改めてff
- 練習番号[10]の8小節目([11]の3小節前)、全金管:冒頭で改めてfff
- 練習番号[11]の2小節目、音のある全木管:冒頭で改めてfff
- 練習番号[11]の6小節目(最後の小節)、fffを書いていない全パート:冒頭で改めてfff
強弱記号の変更
意図的に変更した可能性も考えられるが、元のバージョンの方が納得できる。
- 練習番号[11]の4小節目、2ndPerc.:ffpではなくfffp
オクターブの変更
「入力ミス」とは考えにくいので意図的に変更した可能性が高いが、明らかに変更しない方が良い。
確かに奏者の技量が低い場合に巧く演奏できず、已むを得ずオクターブを変更して演奏することになる可能性が高い場所だが、技量が低くもないのに変更すると演奏効果が台無しになるだけである。
元のバージョンの通りに戻すことをお勧めする。
- 練習番号[2]の8小節目([3]の3小節前)、Picc.:オクターブ上が正当
2024年8月10日初稿/2024年10月21日最終改訂
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