このページは、筆者が講師を担当した講習会において、 当日の講義に向けて準備した要旨をWWWページに再現したものです。 詳しくは、実施後の報告ページを参照してください。
平成12年度文部省博物館職員講習 博物館情報論(2)

博物館における情報提供と活用の方法

戸田 孝(滋賀県立琵琶湖博物館)

「情報=計算機」?

コンピュータ(computer)=computeする機械=計算機
歴史的には「科学技術計算」の道具→「事務計算」(経理等)の道具
現在では「情報管理の手段」として数式を利用していると考えた方が近い
電子情報ばかりが情報ではない
CIA MI6 КГБ informationとintelligence
博物館資料は「情報の塊」
梅棹流の「博情館」論
「博物館情報論」が独立科目として制定された理由
(昨今の「情報化社会」とは?)
情報を電子化・デジタル化する意味は?
アナログにはアナログの、デジタルにはデジタルの、各々の得意分野がある
何を電子化する「べきではない」かを考えることで、
電子化・デジタル化の「本質」や「本当のメリット」が見えてくるかも
今日の「博物館情報論」で敢えて「原始的メディア」を利用する意図を考えて欲しい
プレゼンテーションにパソコン画面を使うと現状では融通が利かなくなる
パソコン画面を受講者が持ち帰れるなら意義は大きいのだが……
電子化・デジタル化の本質は「再利用可能性」だ!
正確な複写が容易に作れること
複写の一部を容易に編集できること

実物vs電子情報=「対立の構図」の記述として、実に馬鹿げている

「実物神話」は本当に「神話」か?
「実物の迫力」とは何か?
本質は「実物の持つ、圧倒的な情報量」である
ニセモノはホンモノから「特定の情報」のみを抽出したもの
“実物”は必ずしも“ホンモノ”ではない
例えば「遺跡から切り離された遺物は“ホンモノ”か?」という議論
展示室へ持って来ることで「実物の情報」の一部が失われる

ついでに
「マルチメディア」って何?

厳密な定義は無いが……
多種多様な情報をデジタル化することによって
「伝達手段」「保存手段」が共通化され、
複合利用が容易になった結果、生まれてきたもの……と理解しておけば良い

通信とネットワーク

ネットワークとデータベース=博物館情報の両輪……というより、博物館活動の両輪
ネットワーク←→展示機能&普及(交流)機能
データベース←→研究機能&資料収集整理機能
「再利用可能性」の1つとしての電子通信
通信の本質は「遠隔地に情報の複写を作ること」
電子化によって、容易に高速複写ができるようになった
ネットワークとは?
通信(=情報交換)を組織的に行うのが「ネットワーク(網構造)」
ネットワークにも「デジタルとアナログ」がある
「地域のネットワーク」「行政組織のネットワーク」
=人同志のコミュニケーションによる情報伝達網
電子のネットワークを介した人のネットワーク
時間と空間の壁を越えた人のつながりができる
阪神大震災・ナホトカ号沈没事故
「ホタルダス」と「ユキダス」=パソコン通信時代の複合ネットワークの実例
直接の発端は琵琶湖研究所の研究員の認識
行政的環境情報と住民意識の齟齬
抽象情報を見る「鳥の目」と生活に根差した「虫の目」
「虫の目」を集める「鳥の目」を目指せないか?
参加住民自身の議論に基づく発展
琵琶湖研究所プロジェクト(1989〜1991)終了後の動き
勝手に続けたホタルダス
http://koayu.eri.co.jp/mizubun
雪から風へ……「ビワコダス」への発展
http://koayu.eri.co.jp/biwadas
議論の手段としての電子ネットワーク
人のネットワークを発展させる原動力にもなる

ネットワークを介した博物館活動

手始めはやっぱり「電子チラシ」
365日24時間アクセス可能な「広報」と「展示」が実現できる
人気のある情報は何か?
・電子メディアの特性としての「速報性」=イベント情報
・遠隔利用で有用なデータ=来館するための交通情報
大相撲協会の「ラジオ中継反対論」に学ぶこと
リアルな情報こそが来館者を呼ぶ
電子情報だから可能になる「展示」とは?
「実物の迫力」の代わりに得られるもの
→結局「再利用可能性」に行き着く
 派生としての「比較性」「加工性」「保存性」
「電子質問コーナー」
即答性が必ずしも必要でない(来館対面対応や電話対応との差異)
しかし、迅速性は確保できる(手紙対応との差異)
「議論の場」への発展可能性
パソコン通信は「議論」が中心だった
→インターネットブームで一旦「一方的情報発信」が中心になる
→双方向性への回帰としての、
 メーリングリスト・WWW掲示板・WWWチャット
(パソコン通信で盛り上げてきた館=徳島県立や兵庫県立人と自然など
 では、パソコン通信のインターネット化を進めている)
「議論の場」を確保するための条件
正帰還系(positive feedback system)であるということ
琵琶湖博物館の館内ネットワークの実例
下からの盛上げ+「個人的な思い入れ」を持ったテコ入れが必要
「お役所仕事」ではうまく行かない

ちなみに
用語の正確な意味 (一応は知っておくに越したことは無いという程度の蘊蓄話)

インターネット(internet)=ネットワークが相互接続された状態
「the Internet」=世界中のネットワークが相互接続された状態
……あくまで「情報の道」であって「使い方」ではないことに注意
  「インターネットを利用して」電子メールやWWWページを使う
「ホームページ(homepage)」=ブラウザの起動時に最初に現れるページ
但し日本国内限定の俗語として「全てのWWWページ」を指す (NHKの語学講座でも「和製英語」として認知してしまったようだ)
「WWW(World-wide Web)」=世界中のページ間にリンクが複雑に張り巡らされた状態
「HTML(Hyper-text Markup Language)」=「WWWページ」を記述する言語
「HTTP(Hyper-text Transfer Protocol)」=「HTML」で記述された情報の通信規格

俗に「インターネット」と呼ばれているものは、厳密には単に「ページ」としか呼びようが無いが、 説明的に「WWWページ」「Webページ」「HTMLページ」などと呼ぶことは可能だろう

データベース

博物館の本質が資料(実物資料かどうかは別として)
であるとすれば、博物館情報の本質はデータベース
「ハコもの優先」は絶対に駄目
琵琶湖博物館の成功部分は「7年の準備期間」の賜物
(例:開館時点で「データベースの中身」がソコソコ揃っていた)
「データとノウハウ」は後まで活きる
昨今は小規模システムが簡単に試作できる
本格的システムは登録件数が万に達してから
ドキュメンテーション(文書化)の無い資料は「ただのゴミ」
ドキュメントを集めれば「データベース」になる
資料目録・資料カード=「アナログのデータベース」
専ら「再利用可能性」のための電子化・デジタル化
デジタル化する際に情報が劣化する 標本化誤差・量子化誤差
(例:デジタル化したカードは「余白が使えない」)
一旦デジタル化すれば、それ以上の劣化は無い
資料整理事業自体を電子化する効果
デジタル化に伴う情報劣化が現場で一目瞭然→システム改良に結びつく
データが現場で簡単に「再利用」できる
「データ入力」を事業化しなくて済む
(必要なのは「公開のためのデータ精製」)
「パンチ業務」は博物館に有効か?
パンチ(穿孔)=黎明期の入力が「紙に穴を開けること」だったのが由来
定型化されたデータが必要=ルーチン化された業務にしか適合しない
既存の「資料カード」を電子化するのには有効かも
図書館情報と博物館情報の違い
共通索引の夢
「再利用可能性」の最たるもの=博物館情報の理想形?
博物館情報の多様性……データベース項目の共通化が難しい
当面は「同じ分野の異なる地域の博物館」同志で進めるのが有効?

つけたし
著作権問題

デジタル時代に著作権問題が深刻化する理由
デジタルメディアの「再利用可能性」が原因
(無節操な複製を抑止していた「複製時の劣化」や「複製コスト」が解消)
リンクは複写ではない!
著作者人格権(同一性保持権)を侵害することはあっても、
財産的著作権(複製権etc.)を侵害することは原理的に有り得ない

日本の博物館のインターネット利用に関する情報を
検索する起点としてお勧めのサイト

http://www2.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/~museum/index.html
博物館ホームページ推進研究フォーラム(現場学芸員の研究会)
http://candy.hus.osaka-u.ac.jp/esthome/matusita/Museum/hajime/teigi.html
博物館の博物館(松下幸司さん)
http://www.bekkoame.ne.jp/~atsuka/ush/im.html
info@museum(塚原晃さん)
http://www.museum-net.com/
museum-net(崎山正人さん)
http://www.museum.or.jp/
インターネットミュージアム(丹青研究所)
http://www.j-muse.or.jp/
やまびこネット(日本博物館協会)
http://jcsm.kahaku.go.jp/JCSM/
全国科学博物館協議会(科博協:JCSM)
http://www.jazga.or.jp/
日本動物園水族館協会(動水協:JAZGA)
http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jsai2/
全国歴史資料保存利用期間連絡協議会(全史料協:JSAI)