通算第176回(2011年6月号)

 先日の公サ連まつりでNHK大河ドラマのテーマ音楽を演奏しました。過去にも何回か大河ドラマのテーマを採り上げています。そこで、これについて少し掘り下げてみましょう。

第30講:大河ドラマの周辺(第1回)

 NHK大河ドラマは今年の「江」で50作目ということで、大々的にキャンペーンを張っています。その一環として、昨年までの49作のテーマ音楽を全て収録したCDが発売されており、全貌を振り返ることができます。

 公サ連まつりのような場で大河ドラマのテーマ音楽を採り上げるのは、聴く人の多くが知っているだろうと考えるからです。ただ、基本的には「その年に限って」よく知られている曲でしかないというのが辛いところです。数年前までなら多くの人が覚えているでしょうが、さらに遡ると耳にすることも少なくなり、忘れられてしまいがちです。

 そんな中で、第2作の「赤穂浪士」(1964年)のテーマ音楽だけは、いつまでも耳にします。どの曲のことか判らない方が多いと思いますが、聴けば「聞き覚え」を越えて「聞き馴染み」を感じる人が多いでしょう。ただ、ほとんどの方は「大河ドラマ」だとは思わずに聴いていたのではないでしょうか。

 いつまでも耳にするのは、テレビ番組等で「忠臣蔵事件」を扱うときに、他に無いのかと思うほど、この曲をBGMに使うからです。「忠臣蔵事件」を扱った作品は、NHK大河ドラマだけでも、専らこの事件を中心に扱った「峠の群像」(1982年)と「元禄繚乱」(1999年)、当時の政権指導者(柳沢吉保)を主人公にした「元禄太平記」(1975年)、同時代のストーリーの中で軽く触れた「八代将軍吉宗」(1995年)の4作があるのですが、それを押し退けて使われ続けるのは、それだけ印象深かったということなのでしょうか。



通算第177回(2011年7月号)

 NHK大河ドラマテーマ曲でのピアノの使用について見てみましょう。

第30講:大河ドラマの周辺(第2回)

 先日演奏した「江」のテーマ音楽は、ピアノ独奏での主題提示が前奏なしで始まるのが印象的です。NHK大河ドラマのテーマ曲で主題提示がピアノで為されるのは「江」で3作目ですが、全て主人公が女性というのは面白いところです。

 日野富子を主人公にして応仁の乱の時代を扱った「花の乱」(1994年)は、「江」と同様にピアノ独奏に後から弦楽器の和声伴奏が入ってくるという始まり方です。「江」で無伴奏なのは最初のAuftaktだけですが、「花の乱」は無伴奏ソロが4小説ほど続きます。もう1作の「いのち」(1986年)はフルオーケストラの前奏に引続いてピアノ独奏の主題提示が入るという形でした。

 「いのち」はNHK大河ドラマ唯一の現代劇で、戦後混乱期から始まって、放映とほぼ同時代にまで話が進みました。直前の2作と合わせて「昭和三部作」と呼ばれることがありますが、前2作は「近い時代を扱った時代劇」でした。太平洋戦争中の日系米国人たちを描いた「山河燃ゆ」(1984年)は東京裁判で終わっています。川上貞奴を主人公とする「春の波涛」(1985年)は、確かに昭和に少し入りましたが、むしろ明治大正期に重点があります。それに対して「いのち」は、女医を主人公にして女性の社会進出や再婚家庭を巡る葛藤を扱うなど、大河ドラマというより「朝ドラ」の内容でした。

 ピアニストが独奏者としてクレジットされている作品には、もう1作、「葵徳川三代」(2000年)があります。この曲は、オーケストラで提示された旋律にピアノ独奏が後から絡んで行く形になっていました。他にピアノを使っている作品を挙げてみると、「翔ぶが如く」(1990年)では全曲で絡んできますし、「勝海舟」(1974年)ではほぼ全曲で「打楽器」として使っており、特に冒頭の使い方は印象的です。上述の「春の波涛」でも、冒頭や間奏で印象的に使っています。



通算第178回(2011年8月号)

 NHK大河ドラマテーマ曲の演奏者について見てみましょう。

第30講:大河ドラマの周辺(第3回)

 NHK大河ドラマのテーマ音楽は原則として「NHK交響楽団」が演奏しています。これは「日本一のドラマのテーマを日本一の楽団が演奏する」という発想なわけで、最初から考えていたらしいのですが、演奏が実現したのは第3作の「太閤記」(1965年)からです。その後は「琉球の風」(1993年)を除いてN響が演奏していますが、その中には他の音楽家とのセッションという形もあります。

 比較的初期の作品で話題になったのは、宇崎竜童が率いるダウンタウン・ファイティング・ブギウギ・バンドが登場した「獅子の時代」(1980年)です。それまでにも邦楽の楽器を使った事例はありましたが、時代劇のテーマ曲ですから、ある意味で自然な選択だったのです。そこへエレキギターの音が大々的に鳴り響いたのは衝撃的でした。  「獅子の時代」は種々の意味で実験的な作品で、例えばタイトルバックの前に、それまでの話の流れや時代背景を2分前後で解説する手法も、この作品が最初です。また、架空の無名人物を主人公に幕末から明治への動乱期を描くというのも、実は「三姉妹」(1967年:ある旗本の一家が主人公)に続く2作目なのですが、斬新な感じを与えたかもしれません。主人公が会津藩士と薩摩藩士で、最初から最後まで対立しつつも友情が通っているという描き方も実験的だったと言えるかもしれません。

 ちなみに、邦楽の楽器としては、「天と地と」(1969年)で琵琶、「新・平家物語」(1972年)で琴を各々派手に使っていますし、「風と雲と虹と」(1976年)では三味線を打楽器的に使っています。「新・平家物語」「風と雲と虹と」では横笛も使っています。横笛(龍笛・篠笛など)は他には「源義経」(1966年)の最初の主題提示に複数ユニゾンで使われ、「樅の木は残った」(1970年)「義経」(2005年)でも使っています。「義経」では笙も使っています。また、「太平記」(1991年)「北条時宗」(2001年)では篳篥を使っています。ただし、これらの中で50作記念CDに奏者のクレジットがあるのは、琵琶・琴と「樅の木は残った」の笛だけです。



通算第179回(2011年9月号)

 NHK大河ドラマのテーマ曲での歌唱の使用について見てみましょう。

第30講:大河ドラマの周辺(第4回)

 NHK大河ドラマのテーマ曲で「歌詞のある唄」が登場したのは、かなり後になってからで、30作目の「信長」(1992年)が最初です。そして、翌年(1993年)の「琉球の風」のテーマ曲は、「歌謡」として通して唄える唯一の作品です。この「琉球の風」は、初期を除けば唯一、テーマ曲の演奏がNHK交響楽団ではありませんし、大河ドラマの短期化を試行して半年間の放送にするなど、いろいろ変革を狙っていました。しかし、N響の演奏は次からまた復活し、放送期間も続く「炎立つ」「花の乱」を各々9ヶ月にして元のペースに戻しています。ちょうどNHKが、大河ドラマに限らず、長く続いているものを色々と変えようとしていた時期なので、その流れの中で「歌詞のある唄」も出てきたということのようです。(ちなみに以上の事情により、「江」は大河ドラマ50作目ですが、49年目ということになります。)

 その後「歌詞のある唄」が使われたのは「新選組!」(2004年)のみです。作曲者が「歌詞を入れたい」と考え、脚本家にイメージを伝えて作詞させたのだとか。ちなみに、「龍馬伝」(2010年)の唄は何か意味のある言葉を発しているように聞こえますが、実は言葉にはなっていないようです。なお、言葉になっていないことが明白な独唱としては「北条時宗」(2001年)があります。

 「歌詞の無い合唱」は比較的早くから使われており、「天と地と」*(1969年)「新・平家物語」(1972年)「勝海舟」(1974年)「風と雲と虹と」*(1976年)「徳川家康」*(1983年)「武田信玄」(1988年)「春日局」*(1989年)「太平記」(1991年)「葵徳川三代」*(2000年)「武蔵」(2003年)と続き、「北条時宗」「龍馬伝」にも出てきます。ただし、生の合唱ではなく合成音を使っている可能性があります。上で“*”を付した以外の作品は、大河ドラマ50作記念のCDに合唱に関するクレジットが無いという意味では可能性がありますが、「北条時宗」の独唱やその他諸々の邦楽楽器などクレジット自体に欠落が多いので、確実な情報ではありません。

インターネット向け補記(2011年10月)
「新選組!」には「歌詞のある合唱」が入っているのですが、50作記念CDでは独唱のクレジットのみで合唱の分はありません。「信長」の合唱団はクレジットされています。「琉球の風」は独唱のみで合唱は使われていないようです。


通算第180回(2011年10月号)

 NHK大河ドラマのテーマ音楽の演奏に、NHK交響楽団以外の音楽家や特殊楽器が入ったりしている事例を種々見てきました。最後に残ったところを見ていきましょう。

第30講:大河ドラマの周辺(第5回)

 NHK交響楽団と他の音楽家とのセッションで特徴的な事例としては、「利家とまつ」(2002年)でオーケストラ・アンサンブル金沢と共演したことが挙げられます。意図としては、主人公夫妻を2つの楽団の対位で表現したということらしいのですが、両楽団が別々に聞こえるような工夫を何かしないと、ほとんど判りません。単なる管楽器と弦楽器の対位に聞こえてしまうような場所も多々あります。

 邦楽の楽器以外の特殊楽器としては、「独眼龍政宗」(1987年)と「八代将軍吉宗」(1995年)で使われたオンド・マルトノ(Ondes Martenot)、そして「秀吉」(1996年)で使われたPanFluteを挙げることができます。

 オンド・マルトノは連続的な音程変化が無制限にできる電子楽器としては、唯一実用化されたものと言っても良いでしょう。シンセサイザーなどでも同じような音を作ることはできますが、奏者がその場の判断で音を作れるという操作性では太刀打ちできず、オンド・マルトノの操作部分を模して採り入れるようなことも為されているようです。

 エレキギターやエレキベースは、「ブギウギ・バンド」の「獅子の時代」(1980年)やN響の演奏でなかった「琉球の風」(1993年)に使われていますが、実はもう1作、「功名が辻」(2006年)にもエレキベースが入っています。普通のオーケストラの演奏の中に単に雰囲気を変える形で入ってくるので、気付きにくいかもしれません。

 特殊楽器以外で独奏者が特にクレジットされた事例としては、「春の坂道」(1971年)のCello、「秀吉」(1996年)と「武蔵」(2003年)のTrumpetがあります。「春の坂道」はカデンツっぽい(けれども「合いの手」が多々入っている)ソロを挟んで後半のマーチ的な部分へ進むという構成でした。「秀吉」はTrumpetとPanFluteのソロが交互に曲をリードしていく形になっていました。「武蔵」では前半部分でTrumpetが活躍しますが、特にその冒頭はゲスト奏者のソロに楽団のTrumpetが絡む形になっていました。



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