通算第181回(2011年11月号)

 先日演奏したマーラーの交響曲第6番では、ハンマー・鉄板・多数のカウベルといった、普通は楽器として使わないようなものを楽器として使います。 そういう事例をいろいろ探してみましょう。 これについて見てみましょう。

第31講:変わった楽器(第1回)

 楽器らしくない楽器を使う楽曲の「古典的な代表例」といえば、やはり「おもちゃの交響曲(シンフォニー)」でしょう。 この曲には「おもちゃの楽器」が多数出てきます。 その中には、トランペット・太鼓・トライアングルという、管弦楽で普通に使う楽器と同名の楽器が指定されているものもあるのですが、もちろん玩具として作られたものを指しています。 それに加えて、カッコウとウズラの鳴き声を模した笛、そしてガラガラと水笛(元々の指定では「雌鳥の笛」らしい)が使われています。

 ところで、この曲は作曲者が永年の謎になっているということでも有名です。 元々はフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作品として扱われてきました。 しかし、ハイドンの作品にしては技術的にあまりにも素朴ということが、早くから指摘されていました。 そのため、弟のミヒャエル・ハイドンの作だろうとか、実はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの初期作品ではないかとか、いろいろと憶測されていたようです。

 そんな中、1951年にレオポルド・モーツァルト(ヴォルフガングの父親)の知られていなかった曲が発見され、その一部が「おもちゃの交響曲」の一部と同一であることが判りました。 その結果、「おもちゃの交響曲」自体もレオポルドの作品であるというのが定説になったわけです。 しかし、モーツァルト一族で唯一のマジメ人間とも言われるレオポルドの作品にしてはフザけ過ぎではないかという批判もありました。

 1992年になって、チロル地方の修道院で「おもちゃの交響曲」の古い写譜が発見されました。 そして、その記述を根拠に、それまで全く無名だったエトムント・アンゲラー(1740-1794)の作品であるとする説が、現在では有力視されているようです。

 不思議なのは、この曲がハイドンの生前からハイドンの作品として扱われていたらしいことです。 実は1992年発見の写譜では題名が「ベルヒスガーデンの音楽」となっています。 ベルヒスガーデンというのは木製玩具で有名なバイエルンの保養地です。 そのため、玩具の宣伝のためにハイドンの名を騙って曲を広め、ハイドンもそれを容認したのではないかという説もあるようですが、現時点では全く根拠の無い憶測のようです。

参考資料

Wikipedia 「おもちゃの交響曲」 「エトムント・アンゲラー



通算第182回(2011年12月号)

 「擬音」的な音を使った楽曲の、比較的古い事例について見てみましょう。

第31講:変わった楽器(第2回)

 比較的新しい曲で「擬音」を使った曲というのは、それほど珍しいものではありません。 しかし、録音技術が無かった時代には本物の音を使わざるを得ないという技術的制約がありました。 普通に考えれば、音を出すタイミングを簡単に制御できるものに限られるでしょう。 例えば銃器が該当します。 古いところではベートーベン「ウェリントンの勝利(戦争交響曲)」の小銃がありますし、チャイコフスキー「1812年」の大砲、ヨハン・シュトラウス2世「狩り」の猟銃などが有名なところです。

 そんな中で、レオポルド・モーツァルトの「シンフォニア・ダ・カッチャ(狩りの交響曲)」が猟銃と共に犬の鳴き声を使っているのは、かなり冒険的な試みだったと言えるかもしれません。 この曲の場合、猟銃は音楽に合わせた正確なタイミングで音を鳴らしていますが、犬の鳴き声は背景的に「このあたりで鳴かせ続ける」という形で入れているようです。 しかしそれにしても、本物の犬を指定通りのタイミングで鳴かせるのは至難の技のハズで、一体どうやっていたのか気になるところです。

 さて、「ウェリントンの勝利」と「1812年」は共に戦勝記念で作られた曲なのですが、「1812年」が今に至っても高い人気を保っているのに対し、「ウェリントンの勝利」は発表当時には熱狂的に受入れられたらしいのですが、今では忘れられかけた曲になっています。 ベートーベンの数少ない愚作だという評価もあるようなので、そういう音楽的評価の結果だと考えられなくもないのですが、「1812年」の方も明らかな手抜きが多々見受けられるなど、決して音楽的に優れた作品とは言い切れないものです。 多数の小銃を乱射して戦闘状況を表現するよりも、祝砲的な大砲の射ち方の方がインパクトが強くて解りやすいということなのでしょうか。



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