通算第293回(2023年2月号)

 春の演奏会で採り上げることになったゲーム音楽について見てみましょう。

第44講:ゲーム音楽の周辺(第1回)

 ゲーム音楽には独特の雰囲気があります。 それには勿論、コンピューターゲームというものの「元気さ」も関係していますが、それに加えて、初期のゲーム音楽が背負っていた「制約条件」も重要と考えられています。 これによって「独特の雰囲気」が形づくられ、制約が無くなった後にも引き継がれていったようです。

 「制約条件」というのは、プレイステーション(初代は1994年)以前のゲームコンピューターが、とにかく「低機能」だったということです。 例えば、今回音楽を演奏するゲームの中で最も古いのはスーパーマリオ(第1作が1985年)ですが、工員を思わせるツナギの服装にヒゲヅラという特徴的な風貌は、解像度の低い画面で人物像を表現せねばならないという制約条件下で造形されたものと言われています。

 音楽面については、普通の録音データを収録するようなメモリ容量は、当時はゲームコンピューターどころか、かなり高性能の大型計算機でも望めないようなものでした。 デジタル音声を収録するCDというものが実用化されて普及し始めたころでしたが、あくまで外部記憶装置で、コンピューター内部のデータにはできなかったわけです。

 当時のコンピューターは、特定の音を発する装置にON/OFFの指令を出して音楽を実現していました。 最初期には、1種類の音しか出せない装置にON/OFFを切り替える命令を高速で出し、そのON/OFFの周期で音程を作るという荒業も使われています。

 流石にファミコン(初代は1983年)などのゲーム専用機は複数の音が出せるようになって、旋律がまともに演奏できるようになっていましたが、音色に限りがあったうえ、「同時発音数」という制約条件がありました。 つまり「和音」を鳴らすとそれだけで全性能を使い切ってしまうため、基本的に使えなかったのです。 このような制約条件下でどのような音楽作りが為されてきたかを、次回で見ていきたいと思います。

参考資料

https://guitarblog.net/constraints-imposed/



通算第294回(2023年4月号)

 ゲーム音楽が「制約条件」の中でどのように発展してきたかを見てみましょう。

第44講:ゲーム音楽の周辺(第2回)

 ゲーム音楽が発達していた時期には、ゲーム機は年々改良され、「制約条件」も次々と改良されていきました。 しかし、それはゲームそのものの発展と同時進行ですから、「制約条件」を多々抱えたままゲーム音楽が発展し、それがゲーム音楽の独特の雰囲気を形成することになりました。 こうして形成された雰囲気は、「制約条件」が解消された後にも引き継がれていくことになったようです。

 初期に大きな問題とされたのが、前回も述べた「同時発音数」という制約条件のために「和音」が使えないことです。 それに対処するために分散和音(アルペジオ)が利用されました。 今回の演奏会でも採り上げる「スーパーマリオ」ではキノコが生えてくるなどといった状況を表現する効果音として分散和音が使われていますが、そのような「上下の向き」があるような状況でなくても分散和音が多用され、高速で繰り返される分散和音を持続和音の代わりに用いるのも普通のことでした。

 また「単純な音色の単音」しか使えないということも大きな制約条件となりました。 つまり、多様な音色を使い分けることができないだけでなく、各々の音に表情をつけることにも限界がありました。 そのため「旋律そのもの」を魅力的にすることを目標にした作曲が追究されるという方向性も生じたようです。

 その一方で、電子音楽であるがゆえに「制約条件が無い」という状況も生じています。 その典型例が「自由自在な転調」です。 実体楽器の場合、全く同じ旋律進行や和声進行であっても、転調するとそれだけで音色が大きく変化してしまいます。 特に管楽器の場合には、転調すること自体が演奏の難易度に強い影響を及ぼし、音色にも影響してきます。 しかし、電子音楽にはそのような条件は無く、同じ音色を保ったまま自由に転調できます。 そのため、細かく転調を繰り返すことで楽曲の流れを作るという手法も多用されることになったわけです。

参考資料

https://guitarblog.net/constraints-imposed/
https://guitarblog.net/composition-and-arrangement/



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