通算第23回(1998年9月号)

 全体合奏などに出た話題について、その背景や発展をコラム的に散発的に論ずるシリーズの2回目です。

随時講座:合奏中の話題から(その2)

 カウント・ベイシーの最後に、ベイシー自身が叫んでいた「One More Time!」などの台詞の後に、楽譜には“cue”と書いてあります。 別にこれは「キュー!」と叫ぶわけではなく、ドラムのフィル・インで合図をするという意味です。

 でも、NCEには、“cue”を、欠落パートの吹替を意味する用語として知っている方が多いと思います。更に、ビリヤードの突き棒も“cue”ですし、テレビ業界用語としてご存知の方もあるでしょう。 これらの関係について調べてみました。

【ビリヤードの“cue”は別語源】

 ビリヤードの「突き棒」を意味する“cue”は、音楽用語とスペルは同じであるが、語源は全く異なる。 直接の語源はフランス語の“queue”で、「尻尾」という意味がある。 この言葉を話し言葉として「突き棒」の意味に用いたのに対して、語源がわからないままに英語風のスペルを割当てたのが定着したらしい。

【影譜の“cue”はタイミング用法が本来の意味】

 音楽用語としては“cue”は影譜の意味である。 影譜とは「合奏等のパート譜において、他のパートが演奏するべき部分を小音符で記入したもの」と定義できるが、これには以下の2種の用法がある。

(1)長い休みの後、演奏を始めるタイミングを知る参考のために記すもの
(2)該当パートの不在時に、代替で演奏するためのもの
現在、“cue”という表現は、どちらかというと(2)の用法の影譜に用いる場合が多いようであるが、実は(1)の用法の影譜を指すのが、この用語の本来の意味である。 つまり、演劇等において喋り出しなどの合図を意味する“cue”がこの言葉の語源である。

【演劇用語の“cue”は「Q」にスペルを充てたもの】

 演劇用語(テレビ業界でも用いる)で合図を意味する“cue”は、本来は「Q」である。 喋り出しなどのタイミングを台本等に記す時に「Q」という文字を用いる習慣があり、この「Q」という文字を用いるという意味の動詞として用いるにあたって、「Q」のままでは活用させられないので“cue”というスペルを充てたわけである。

【「Q」はラテン語の頭文字】

 では、タイミングを示す「Q」という記号の起源は何かというと、これはラテン語の“quando”(英語のwhenに相当する接続詞・疑問詞)の頭文字である。 この言葉はイタリア語やスペイン語でもそのまま用いられており、フランス語でも“quand”という形で用いられている。

《参考文献》

ランダムハウス英和大辞典(小学館)
スタンダード佛和辞典(大修館書店)
羅和辞典(研究社)



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