定演のオープニング曲である兼田敏の「序曲」は、一見単純な曲のように見えながら、実は変拍子やポリフォニーなどの技法をさりげなく使っています。 このうち、変拍子について見てみましょう。
Ludwig社から出版されているスコアに掲載されている“Notes from the Composer”によると、この曲のAllegroの部分は、作曲者が幼少期に2年ほど過ごした、瀬戸内海に面した四国の村の秋祭りの風景からイメージしたものだそうです。 断片的で必ずしも整合的でない古い記憶というモチーフを、流れが所々で狂った音楽によって表現したのかもしれません。
いずれにしても、作曲者は変拍子を素直に「変拍子」としては記述せずに強引に2拍子の中に押込めて表現し、どうしても矛盾が解消できなくなったら初めて「変拍子」として記述するという方針で書いているようです。 そのため、「楽譜上の拍子」と「音楽の流れとしての拍子」が必ずしも一致しません。 例えば、以下のような不一致を指摘することができます。
小節番号 | 楽譜上の拍子 | 音楽上の拍子 |
26〜28 | 3+3+3 | 2+2+2+2+1 |
82 | 3 | 1+2 |
101〜110 | 2×10 | 3+2+3+2+3+3+3+1 |
167〜169※ | 2+2+3 | 3+2+2 |
107〜207 | 2×11 | 3+2+3+2+3+3+3+3 |
213〜215※ | 2+2+3 | 3+2+2 |