通算第59回(2001年9月号)

 定演のオープニング曲である兼田敏の「序曲」は、一見単純な曲のように見えながら、実は変拍子やポリフォニーなどの技法をさりげなく使っています。 このうち、変拍子について見てみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その7)

 「序曲」の楽譜を見てみると、2拍子の音楽の中に時々3拍子が出現しています。 しかし、この3拍子の部分だけが「変拍子」なわけではありません。 実際に音楽の流れを追ってみると、あちこちに「2拍子」に合わない部分が出現していることに気付きます。

 Ludwig社から出版されているスコアに掲載されている“Notes from the Composer”によると、この曲のAllegroの部分は、作曲者が幼少期に2年ほど過ごした、瀬戸内海に面した四国の村の秋祭りの風景からイメージしたものだそうです。 断片的で必ずしも整合的でない古い記憶というモチーフを、流れが所々で狂った音楽によって表現したのかもしれません。

 いずれにしても、作曲者は変拍子を素直に「変拍子」としては記述せずに強引に2拍子の中に押込めて表現し、どうしても矛盾が解消できなくなったら初めて「変拍子」として記述するという方針で書いているようです。 そのため、「楽譜上の拍子」と「音楽の流れとしての拍子」が必ずしも一致しません。 例えば、以下のような不一致を指摘することができます。

小節番号楽譜上の拍子音楽上の拍子
26〜283+3+32+2+2+2+1
821+2
101〜1102×103+2+3+2+3+3+3+1
167〜169※2+2+33+2+2
107〜2072×113+2+3+2+3+3+3+3
213〜215※2+2+33+2+2
 その他、小節番号49あたりは、変拍子と考えるべきか弱起と考えるべきか微妙なところです。 定演では、特に矛盾の深刻な※の2ヶ所を除いて楽譜通りの拍子でタクトを振る予定ですが、演奏に際しては是非「音楽上の拍子」を意識してみてください。



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