通算第77回(2003年3月号)

 先月に練習曲として採り上げたRunningの「Sinfonia Festiva」(演奏会の候補曲として挙げられているようですが……)には、細かい表情指定が英語で記載されています。 そこまで言葉で表現するのは無茶だろうと言いたくなるようなものも多いようです。 面白そうなので、狙いを絞って細かく見てみることにしました。

随時講座:合奏中の話題から(その8)

 楽曲の表情はイタリア語で指定するのが原則ですが、細かい微妙なニュアンスを作曲者や編曲者の母国語で指定することもあります。 「細かい微妙な」ニュアンスが目的ですから、本当にその表現で意味が通じるかどうか怪しい事例も少なくありません。

 「Sinfonia Festiva」の最後の盛り上がりの部分は、流れとしては順次“興奮状態”がレベルアップするのですが、その表現で本当にレベルアップなの、と言いたくなる微妙な表現が続いています。 順に検証してみましょう(数字は第3楽章中の小節番号)。

166:with joyful exhilaration

「exhilarate」は「活気づける、快活にする、気分を浮き立たせる、陽気にする、愉快な気持ちにする」というような意味です。 「joyful」つまり「嬉しい」陽気を伴ってということですから、まだ浮き浮きしているだけで、興奮状態にはなっていないようです。

174:joyous and jaunty

「joyous」は文語的な表現だとする辞書もありますが、この曲では単に「joyous」を副詞的に「joyful」を形容詞的にと使い分けているだけでしょう。 「jaunt」は「行楽、物見遊山」という意味で「jaunty」となると「陽気な、呑気な、軽快な」というような意味から、さらに派生して「粋な、ハイカラな」というような意味になります。 何れにしても、何故これが「exhilaration」の次の段階に来るのかは謎です。

182:jazzy and joyous

「jazzy」は「jazzのような」から「活発な、元気一杯の」という意味を経て「狂騒的な、派手な、ケバケバしい」という意味にも使われます。 そろそろタガが外れて馬鹿騒ぎになってきたということでしょうか。

190:brilliant, flowing

「brilliant」は「ピカピカ光輝く、華々しい」というニュアンスです。 「flowing」は、この場合は「流暢な」という意味でしょうか。 このあたりまで来ると、興奮を煽る表現ではなく、興奮しながらも理性を求める表現になってきているようです。

198:(低音の旋律に)molto cantabile
  (ベースのリズム形に)rock and roll!

最後は、限定的な「理性を求める注意書き」のみになります。 ここまで来たら、わざわざ言葉で興奮を煽るまでもないってこと?



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Copyright © 2003 by TODA, Takashi