通算第97回(2004年11月号)

 今年は長岡京市のガラシャ祭りに参加することになりました。 雨で中止になる可能性もあるのですが、それはさておき、今回は「ガラシャ」という名前について……

随時講座:合奏中の話題から(その9)

 インターネットで細川ガラシャに関して述べているページの「URL」を見ると、実に多種多様なスペルで「ガラシャ」を綴っていることが判ります。 例えば、長岡京市のガラシャ祭りのページでは「Garasha」と綴っています。 カタカナ表記を単にローマ字化したものですから、素直と言えば素直ですね。 「Garasya」「Garashya」も見受けられましたが、同様です。 その一方で、「Garacia」「Galasha」など、根拠不明の綴りもありました。 「Garasia」というのもありました。 カタカナ表記が「ガラシア」なら問題無いのですが、実際には「ガラシャ」でした。 首尾一貫していません^_^;

 「ガラシャ」の正しいスペルは「Gracia」です。 現代的には「グラーシア」ないし「グラシア」と表記するのが標準的なんでしょうが、最初の「グ」は母音の無い子音だけですから、ガ行の文字なら何でも良いと言えるかもしれません。

 一般に、ヨーロッパの人名は同じ起源のものが各言語圏ごとに各々変化します。 例えば、聖書に登場する人名として有名な「ヨハネ」は、英語で「ジョン」ドイツ語で「ヨハン」フランス語で「ジャン」イタリア語で「ジョバンニ」ロシア語で「イワン」ハンガリー語で「ヤノーシュ」などと変化します。 そして、これが各言語圏風に表現した「同じ名前」と認識されています。

 ガラシャ(Gracia)はポルトガル語風ないしスペイン語風の表現で、英語で「グレース(Grace)」イタリア語やドイツ語で「グラツィア(Grazia)」などとなります。 モナコ王妃になった女優の名前として有名ですね。 この名前は「慈悲」という意味で、このようなキリスト教の理念を表わす普通語彙は、宗教改革以後にカトリック的な名前を避けつつもキリスト教的な名前を求めるという動機から多用されるようになったと言われています。 細川ガラシャはカトリック教徒ですが、宗教改革に対抗してカトリック内部での改革運動が広がっていた時代(その一環としてアジアへの布教活動が積極的に進められた)ですし、同じような流れがあったのかもしれません。

参考文献

梅田 修(2000):ヨーロッパ人名語源事典、大修館書店、ISBN4-469-01264-5



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