通算第103回(2005年5月号)

 ここ最近、今年の吹奏楽コンクールの課題曲「パクス・ロマーナ」を、ミニコンサートなどでの利用も意識して、練習曲として採り上げました。 どうやら出番は無くなりそうですが、この曲名について考えてみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その10)

 「パクス・ロマーナ(Pax Romana)」を直訳すると「ローマの平和」となります。 ところが、東洋の「平和」という用語とラテン語の「Pax」(英語の「peace」などの語源)とには、ニュアンスの違いがあるようです。

 「平和」の「和」には「声を合わせる」という語義があり、「平和」という言葉には暴力(戦争)を否定した調和・同化という意味合いがあります。 それに対して「Pax」は語源的に「合意・協定」という概念に通じる言葉で、「戦争によって勝ち取られた平和」というニュアンスを有しているようです。

 実際、「パクス・ロマーナ」という言葉は「ローマ帝国の強大な権力によってもたらされた平和」という意味合いで使われるようです。 2003年のアメリカ合衆国によるイラク侵攻に際して、この言葉をもじった「パクス・アメリカーナ(Pax Americana)」という表現が盛んに使われました。 「実力行使による秩序維持」を目指す合衆国の姿勢を、皮肉を込めて評する文脈で使われることが多いようです。

 過去には、第二次世界大戦後の米ソ冷戦体制によって維持されてきた「パクス・ルッソ=アメリカーナ(Pax Russo-Americana)」や、19世紀の大英帝国による世界支配を意味する「パクス・ブリタニカ(Pax Britannica)」という言葉も使われました。 また、歴史学者の間では、チンギス=ハンが造り上げたモンゴル大帝国の内部で東西の安全な交流が可能になった状況を「パクス・モンゴリア(Pax Mongolia)」と表現することがあるようです。

 ちなみに、日本の江戸時代の天下泰平の世の中を「パクス・トクガワーナ」と呼ぶ人が居るとか。 さすがに、正統派の歴史学者はこんな表現は使いませんが……(正統派は「元和偃武」(げんなえんぶ)と呼びます)



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