通算第109回(2005年11月号)

 端境期の練習曲として、Alfred Reedの「オセロ」を採り上げています。 この曲の楽譜には、各楽章の冒頭に科白めいたものが書いてあります。 基本的に原作から抜出したものなのですが、これについて見てみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その11)

 シェークスピアの四大悲劇の1つである「オセロ」は、歴戦の勇士であるオセロが、悪意を持った側近イアーゴの計略にかかり、新妻デスデモーナが密通したと思い込んで嫉妬の余り殺していまい、直後に真相を知って自殺するというストーリーです。 舞台は第1幕がヴェネチア(英語ではヴェニス)、第2幕以降はキプロス(英語ではサイプラス)で、各々第1楽章と第2楽章の標題に括弧書きで補足されている通りです。

 第1・3・5楽章の科白は、少し省略があったりする他は、原作でのオセロの科白そのままです。 第1楽章は第1幕第3場で戦いに赴くに準備周到であることを宣言するもの、第3楽章は同じく第1幕第3場でデスデモーナの愛を如何に得たかを「娘は騙された」と主張する父親の居る場で釈明する科白の締めくくりの部分、第5楽章は最後の第5幕第2場で全てを知って自殺を図り絶命する直前の「最後の科白」の前半です。

 他の2つの楽章の科白は原作にはありません。 第2楽章については、第3幕第1場の科白の“good morrow”という古い言回しを現代的な“good morning”に変えたもののようです。 第2幕でイアーゴの罠に落ちて罷免されたキャシオー(オセロの副官)が、復帰を果すためにオセロ夫妻の御機嫌をとろうと、偶々来ていた旅の楽団に朝の挨拶をさせようとする場面の科白です。 ちなみに、この後デスデモーナを通して熱心に復帰を働きかけた行動を利用され、密通相手に仕立て上げられてしまいます。

 第4楽章については、はっきりしたことは判りませんが、原作ではなくヴェルディの歌劇の科白(イタリア語)の英訳ではないかと思われます(村上泰裕氏の「アルフレッド・リードの世界」に「ボイト版」とあるのはヴェルディ歌劇の台本のこと)。 第3幕(原作第4幕に相当)を締めくくるイアーゴの科白“Ecco il Leone!”が、その直前のオセロを讃える合唱“Gloria al Leon di Venezia!”の意味を復唱していることを意識して、“di Venezia”を補足したうえで英訳したものでしょう。 疑念と嫉妬で平常心を失っていくオセロの様子を、イアーゴが皮肉たっぷりに表現する科白です。



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