通算第135回(2008年1月号)

 春の演奏会で課題曲シリーズとして採り上げる曲のうち、今度は「エル・キャピタン(El Capitan)」という標題について見てみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その20)

 「El Capitan」はスペイン語で、英訳すれば「The Captain」になります。 この曲はスペインからペルーに派遣された「capitan」を主人公とするオペレッタから抽出したものです。 この場合の「capitan」は、通常「総督」と訳されます。 しかし、辞書を索いてみると、状況によって様々な訳語があります。 特に、海軍では「大佐」、陸軍では「大尉」と、随分とレベルの違う階級になります。 これはどういうことなのでしょうか?

 軍隊の階級名の日本語は明治政府が決めたものです。 各々の階級の命名は、律令の官職名を参考にしつつも、全く新たに考えられました。 既に完成された西洋諸国の制度と揃うように整備したので、合理的で整然とした命名になっています。

 しかし、元になった西洋諸国の制度は歴史的変遷を経て形成されたものなので、その歴史を引き摺った命名になってしまっているわけです。 例えば、陸軍大将は直訳すれば単に「将軍」で、陸軍中将は直訳すれば「将軍代理」となります。 同様に海軍大将は単に「提督」で海軍中将は「副提督」になる、という具合です。

 「captain」というのは「指揮官」というほどの意味です。 特に海軍では「艦長」という具体的な意味になります。 しかし、軍隊には様々な立場の人が居ますから、「この人は実際には指揮をしていないが、指揮官と同格である」などとする必要が生じてきます。 こうして、「captain」という言葉が具体的な「職務名」から切り離された「階級」の名称になったのだと考えられます。

 このような「階級」は、当初は各々で独立に制度化されて行ったでしょうが、そのうち「陸軍のcolonelと海軍のcommanderはどっちが偉いんだ?」というようなことを判断して、それに応じて待遇などを考えねばならない状況が出てきます。 そこで、陸軍と海軍の階級が1対1に対応するよう調整されていったのでしょう。 その過程で、各々の都合に応じて、「captain」という同じ言葉が実質的に異なる階級に用いられるという状況が生じ、訳語が混乱する元になったのだと考えられます。



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