通算第221回(2015年3月号)

 久々(ほぼ4年ぶり)の「小ネタ」です。春の演目にも挙がっている「おもちゃの交響曲」についての話題です。

随時講座:合奏中の話題から(その23)

 「おもちゃの交響曲」は作曲者が謎なことで有名です。 元々、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作品として知られていましたが、これは早くから疑問視されていました。 ハイドンの作品にしては、あまりにも「素朴」すぎるからです。

 当時、無名な作曲家の作品を有名な作曲家の作品だと偽って流通させることは、ごく普通に行われていたようです。 その方が売れるからです。 騙られる方の「有名な作曲家」も、それを容認することが多かったようです。

 「おもちゃの交響曲」は版によっては副題に“BerchtoldsGaden”(ベルヒテスガーデン)という地名が入ります。 バイエルン州の南端、チロル地方に隣接するあたりにある保養地で、そこで土産物として売っている玩具の使用が想定されているわけです。 つまり、土産物の宣伝のためにハイドンの名前を利用したと考えられるのです。

 この曲の実際の作曲者としては、ミヒャエル・ハイドン(フランツ・ヨーゼフの弟)の名前が早くから挙げられていた他、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの初期作品だろうという説もあったのですが、何れも決定的ではありませんでした。

 1951年にバイエルン州立図書館で「カッサシオン」という曲が発見されました。 その一部が「おもちゃの交響曲」の一部と同一であり、曲全体がレオポルト・モーツァルト(ヴォルフガング・アマデウスの父)の作と考えられることから、「おもちゃの交響曲」自体もレオポルドの作品だという説が有力になりました。

 1992年にチロル地方にあるシュタムス修道院の音楽蔵書の中から「おもちゃの交響曲」の古い写譜が発見されました。 そこには作曲者として「エトムント・アンゲラー(1740-1794)」という、最近では一部の研究者にしか知られていなかった人物の名が記されていたのです。 アンゲラーはチロル地方で合唱指導者・オルガン奏者・音楽教師として活動していた修道士(神父)で作曲活動も活発だったようです。

 今のところ、アンゲラー作曲説を積極的に否定する理由も無いため、これが最有力な説と考えられているようです。 しかし、また新しい資料が発見されれば、別の説が持上がってくるかもしれませんね。

参考文献

Wikipedeia「おもちゃの交響曲」「エトムント・アンゲラー





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