通算第245回(2017年3月号)

 春の演目の1つ“ファンファーレ「はやぶさ」”に関連して、人工衛星「はやぶさ」について見てみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その25)

 地球帰還のときに大ニュースになった「はやぶさ」ですが、突然のことで何の人工衛星だか判っていない人が多かったと思います。 小惑星「イトカワ」表面の岩石片を持ち帰ったことで話題になっていますが、それは「目標達成の指標」であって、それ自体が「目的」ではありません。 日本の科学衛星は「○○観測衛星」とか「○○探査機」とかいう位置づけが各々明確に定められていますが、「はやぶさ」はこの分類が「工学実験衛星」になっています。 つまり、宇宙探索に必要な「技術開発」を目的として、その技術を実地で試してみるためのものなのです。

 「はやぶさ」で試した技術は多種多様ですが、その1つが「イオンエンジン」です。 推力自体は小さいが「比推力」(単位量の燃料に対する推力)が大きいので、最近は小型衛星用によく使われるようになっているようです。 しかし、地球から遠く離れたところまで本格的に飛行したことはそれまでなく、各種の世界記録を樹立しています。

 他に、自律的判断で目標に向かって軌道調整する「自律航法」も初めて実地で試した技術ですし、小惑星に着陸して離陸するということ自体も初めてのことです。 月や大きな惑星への着陸であれば、その重力に引かれるのを巧く制御して軟着陸すれば良いのですが、微小重力しか無い小惑星に着陸するには、まず自力で目標の惑星に接近し、その速度を制御して軟着陸する必要があるので、格段に難度が高くなります。 そもそも、地球と月以外の天体から離陸した人工飛翔体は「はやぶさ」が初めてでした。

 そして、惑星間軌道(=「地球+月」から離れたところ)からの「サンプルリターン」(=「モノ」を持ち帰ること)に成功したのが「はやぶさ」の最高の成果です。 当初の計画ではサンプルだけを地上に送り込んだあと、さらに他の目標へ向かうことを考えていたようですが、トラブル続きを何とか克服して戻ってきてそのような余裕は無く、本体を犠牲にしてサンプルを安全に送り込む方針に変更したようです。

 目標の「イトカワ」は日本のロケット開発の父とも呼ばれる糸川英夫にちなんだ命名です。 「はやぶさ」の出発時点では未命名(識別番号のみ)だったので、命名権者(発見者)に頼んで目標に相応しい名前に命名してもらったとのことです。

参考文献

Wikipedia「はやぶさ (探査機)」「科学衛星」「イオンエンジン



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