通算第260回(2018年6月号)

 秋の演奏会で採り上げる「3つのジャポニスム」について少し見てみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その27)

 今回はこの曲をフルバージョンで演奏する予定ですが、作曲者自身の手による「コンクールカット」(コンポーザーズ・エディション)や「小編成版」が出版されているという意味でも面白い曲です。 そして、この曲には題名にもちょっとした話題があります。

 それは「ジャポニズム」ではなく「ジャポニスム」つまり「ス」に濁点がつかないということです。 フランス語のイメージを保つためと説明されているようです。 ちょっと発音しにくいと思うかもしれませんが「ニ」に強勢を置くと「ス」が清音になりやすいようです。 「japonisme」(19世紀にヨーロッパで流行した「日本趣味」)というフランス語の本来の発音もそうですし、この流儀がお勧めです。 ちなみに、フランス語風にこだわるなら「ジャ」の発音にも気をつけてください。 舌先を上顎に接触させず、宙に浮かせた状態で発音するのが本来です。

 いずれにしても「3つのジャポニスム」というのは、あくまで「日本語の題名」です。 フランス語の題名「les trois notes du Japon」をニュアンスを保って正確に訳すのは難しいのですが、「日本に関する3つの音色」というほどの意味と考えれば良いでしょう。 一方を翻訳して他方としたものではないわけです。 ちなみにlesは「ル」に聞こえます。 trois=トロワ(「ト」を1つの音節には発音せず、次の「r」と併せて「トゥル」という「1つの子音」のイメージ)で、残りの部分は「ノ・ドゥ・ジャポン」に聞こえると思ってください。 「t」は発音されるのですが、次の「d」とくっついて聞こえにくくなります。 最後の「ポン」は2つの音ではなく鼻母音化した「ポ」です。

 ちなみに各楽章のフランス語の題名も日本語の題名と完全には対応しません。

鶴が舞う:la dance des grues(鶴の踊り:「鶴」は複数)
雪の川:la rivière enneigée(雪に覆われた川)
祭り:la fête du feu(火の祭り)
最後は「ねぶた」が念頭にあるようなので、いわゆる「火祭り」ではなく「灯火の祭り」という意味のつもりと思われます。



通算第261回(2018年7月号)

 「3つのジャポニスム」第3楽章の話題の続きです。

随時講座:合奏中の話題から(その27の2)

 第3楽章「祭り:la fête du feu」の素材になっている「祭りの音楽」は何かという話題はネット上にもいくつか飛び交っていますが、マトモな情報がほとんどありません。 それもそのハズで「特定の1つの祭り」を元ネタにしている部分は少ないようなのです。 作曲者自身が明らかにしているのは「後半に“ねぶた”のリズムを使っている」ことだけです。 該当するのは127〜148小節目ですが、この部分にある「祭りの笛」を意識したと思われる旋律は、“ねぶた”そのものではありません(多少は意識したと思えなくもないのですが)。 ちなみに“ねぶた”は主に旧津軽藩領(青森県西部〜中央部)に伝わる七夕祭りで、新暦の月遅れ、つまり8月上旬に行われます。

 それ以外で元ネタが比較的明確なのは、18〜25小節目にある「八木節」(群馬県〜栃木県に広く伝わる)の前間奏を元にした旋律くらいしか無いようです。 54〜77小節目の旋律については、「そのもの」は発見できませんでした。 「各地にありそうで実は実在しない旋律」を創作したのかもしれませんね。 リズム感は例えば「鹿児島おはら節」あたりが近いようなのですが、旋律自体は全く異なります。 旋律の動きは、例えば「あんたがたどこさ」(熊本)などの手毬歌の方が近いかもしれません。

 38〜41小節目の旋律も印象的ですが、これも「各地によくあるパターン」だと思われます。 YouTubeでいくつか聴いてみたところ、例えば鐵砲洲稲荷神社(東京の八丁堀駅の近く)の神輿囃子が近い形だということが判りました。 他にも色々あるでしょう。 篠笛での演奏が多いと思われますが、それ以外のものとしては、例えば河内音頭の間奏(エンヤコラセードッコイセ)も、このパターンの変奏だと言えます。

 この旋律は、実は第3楽章全曲のあちこちに隠れています。 まず3〜15小節目の中音域に出てきますし、62〜77小節目では主旋律の動きに合わせて旋律としての動きを変えながら続けていくという技も使っています。



「だから何やねん」目次へ戻る

Copyright © 2018 by TODA, Takashi