合奏中、拍子を裏拍も含めて数えるときの「1ト2ト」という「ト」を文字で書く時に「+」とするのが国際的に通用するという話が出ました。 しかし「ト」が「+」というのには違和感を感じる方も多いと思います。
そもそも「+」というのは何でしょうか。 日本語を母語とする人だと「+」を「足し算」という「計算」の記号と認識している人が多いだろうと思います。 「+」という記号を口に出して読む時も「足す」という演算操作を示す語彙で読みます。
しかし「足し算」というものがどういうものか、改めて考えてみましょう。 いろいろ派生した意味もありますが、元々は均質なモノの個数を数えるときに、2つのグループを併せて1つのグループにしたときの合計の個数がどうなるかという計算です。 つまり、「A」というグループと「B」というグループを併せて「AとB」にしたときの個数が「A+B」なわけです。 こう考えると「+」を「と」と読むのは不自然なこととは言えません。 ただ、日本語の場合には「+」は「計算」という特別な操作だという意識が強いので、「と」という一般的な語彙と関連づけることに違和感があるのでしょう。
英語で「足し算」を唱えるとき「+」を「plus」(「増やす・もっと」という雰囲気の語彙)と読むこともありますが、むしろ「and」と読む方が普通です。 他のヨーロッパの言語でも「and」に相当する語を使います。 そもそも「+」という記号自体、「and」に相当するラテン語の「et」を筆記体で書いているうちに「e」の部分が小さくなって「t」の十字の部分だけが残ったのを記号化したという経緯があります。
そういうわけですから、欧米では英語の「and」に相当する語を、足し算と無関係な場面でも「+」で表記するというのは、わりと一般的なようです。
英語で裏拍も含めて拍子を数えるときには「one and two and……」と唱えるのが普通のようです(「and」の「d」は発音としては消えます)。 そもそも日本語の「ト」は、その直訳なんでしょうね。 その「and」を「+」と書くのは自然なことなのでしょう。
ちなみに「&」という記号も「+」と同様ラテン語の「et」が起源です。 「e」を大きく「ε」と書いて、右に小さく「t」を付けたのを記号化したものです。