「鬼滅の刃」の世界には「鬼」が跋扈しており、主人公たちは鬼を撲滅しようとする「鬼殺隊」に属する剣士という設定です。 鬼は基本的には不死の存在で、人間を捕食して力をつけ、「日輪刀」と称する特殊な刀で頸を斬られると消滅します。
そういう設定なので鬼殺隊員たちの多くは強い力で刀をふるうのですが、その意味で異質な存在なのが「胡蝶しのぶ」です。 鬼殺隊の中でも特に実力を有する「柱」の一員である「蟲柱」なのですが、華奢で腕力が無く、驚異的な瞬発力で戦うという設定です。 そのため、鬼の頸を斬るのではなく、相手の鬼に合わせてその場で調合を変えた毒を、銛(もり)のような独特な形の日輪刀で突き刺して毒殺します。
登場する主な鬼殺隊員たちの多くは各々特徴的な羽織を着用しているのですが、胡蝶しのぶの羽織は、蝶の翅(はね)のような黒い網目で、先端部が先から順に白い水玉の入った黒、薄い赤(朱)、薄い青(藍)になっています。 この意匠は「アサギマダラ(parantica sita)」という、前翅が黒い網目、後翅が赤い網目、網目の間が薄い青(=浅葱(あさぎ)色)の蝶がモチーフになっているとされています。
アサギマダラは代表的な「毒のある蝶」として知られています。 一般に生物が毒を持つのは、捕食者を毒殺して滅亡させることによって種として生き残る戦略であるとされています。 その種を捕食することを嫌う捕食者が生き残る必要がありますから、その識別をさせるために目立つ色彩であることが多く、これを「毒を持っているぞと警告する」という意味で「警告色」と呼びます。 アサギマダラの美しい色も警告色です。
「鬼滅の刃」の胡蝶しのぶは、鬼にとって猛毒である藤の花の成分を時間をかけて体内に蓄積していました。 これは、人間を捕食することに選り好みがあって敗れれば自分を捕食するであろうと予測された宿敵に敢えて捕食されることによって、仲間がその宿敵を斬殺するのを援護するという技でした。 蝶の生態に基づいてストーリーを展開するというのは秀逸な発想といえるかもしれません。