ロミオとジュリエット

Прокофьев(プロコフィエフ)のバレエ・組曲と原作との対応

原作(シェークスピア戯曲) バレエ 組曲
幕場 ストーリー内容 括弧内はバレエのみの内容 幕場 曲順
前口上 0-- 1愛のテーマほかの主要動機の寄せ集め
1-1 (朝の街の風景) 1-1 23-1冒頭以外
31-2の一部を単純反復
両家の者が街で出会って喧嘩を始める 43-2前半+抽出反復+短いコーダ
51-2の動機に基づく発展
61-7中程と頻出動機の組合せ
太守が喧嘩を引き分け、今後は厳罰に処すと宣言 72-1冒頭
(場面転換) 8対応なし
ロミオがロザラインへの恋心を語る (対応なし)
1-2 キャピュレットがパリスの求婚への対応を保留
ロミオとベンヴォリオが舞踏会の予定を知る
1-3 ジュリエットがパリスからの求婚を母親から聞かされる 1-2 93-4冒頭+その後の断片と1-2の断片の組合せ
102-2コーダ以外+3-3のコーダ
1-4 ロミオ・ベンヴォリオ・マーキュシオが仮装して舞踏会へ向う 1-3 121-5+最後に3-1と1-6の断片
1-5 舞踏会の準備 111-4に細かく反復追加
舞踏会の開始 1-4 132-1冒頭以外+1-4の一部+頻出動機による部分
143-3冒頭+途中の一部+頻出動機などによる部分
(マーキュシオが笑いをとる) 151-7前半から暗雲の主題を除去+対応のない部分
ティボルトが詰問しようとするがキャピュレットが制止 172-1,1-4と動機共通
ロミオがジュリエットに近付き互いに一目惚れ 161-3
(舞踏会が済んでもまだ二人で踊っている) 18古典交響曲から転用
2-1 ロミオが友人たちを巻いて庭に隠れる (対応なし)
2-2 庭のロミオとバルコニーのジュリエットとの対話 1-5 191-6前半+長いコーダ
201-6の動機を発展
211-6後半に反復2ヶ所追加
2-3 ロミオがロレンスの庵室を訪れ、秘密挙式のことを決める 2-2 282-3+コーダ
2-4 (街の風景) 2-1 221-1の順序組替(コーダは別途)
ベンヴォリオ・マーキュシオの前にロミオが現れ駄洒落合戦 231-3冒頭+1-5後半+1-3冒頭の変形
(街の風景) 242-4前半+対応のない部分+前半の組替+コーダ
25対応なし
乳母と従者が現れロミオとメッセージの交換 263-4冒頭以外
27前奏+全音低い2-2前半+コーダ
2-5 ジュリエットがロミオのメッセージを乳母から聞く (対応なし)
2-6 ロミオが居る庵室にジュリエットが現れ、秘密挙式へ 2-2 29全音低い2-5冒頭+3-3間奏部+2-3に基づく部分
3-1 (街の風景) 2-3 302-4,24と同じ非対応部分,3-2後半の大幅組替
311-1を大幅に修正したもの
ティボルトがマーキュシオにつっかかるが、ロミオが制止 321-2,2-1,2-3,2-2の断片組合せ
ティボルトがロミオの制止を振切ってマーキュシオを刺殺 33似て非なる前奏+1-7前半+短いコーダ
瀕死のマーキュシオとロミオとの対話 341-2,1-5と動機共通
ロミオがティボルトに決闘をふっかけて殺す 35対応のない長い前奏+1-7後半
(ティボルトの縁者が集まる) 36
ロミオが太守から追放を命ぜられる 3-0 372-1冒頭
3-2 ジュリエットが乳母から事の顛末を聞かされる (対応なし)
3-3 ロミオが居る庵室に乳母が現れ、夜に忍ぶことを約する
3-4 キャピュレットがジュリエットとパリスの結婚を急遽決める
3-5 ロミオがジュリエットの寝室を後にする 3-1 38
39
2-5前半の末尾を発展反復して終わり
両親が現れ、パリスとの結婚を申し渡される 403-4を基本に1-4の断片を入れて組替え
412-2,2-1と動機共通(前半の末尾は2-2のコーダ)
ジュリエットは死の覚悟を秘めてロレンスの庵へ向かう 42愛のテーマと1-6中盤の断片に基づく
(場面転換) 43短い前奏+2-5中間部
4-1 パリスがロレンスに挙式予定を告げて司式を依頼 (対応なし)
ジュリエットが現れ、パリスと反目 41へ統合
パリス退場後、仮死薬を使った計画の打合せ 3-2 442-3,1-6と動機共通+2-5後半の変形+3-3の間奏部
(場面転換) 45愛のテーマと2-1の断片に基づく
4-2 ジュリエットが帰宅し、結婚を承知すると嘘の返事 3-3 462-1中間部が発展して復帰+2-2に基づくコーダ
4-3 ジュリエットが乳母を退出させて一人になり、薬を飲む 47前奏+2-5後半+3-6の断片も交えた長いコーダ
4-4 キャピュレット家が結婚式準備で慌ただしくしている 483-5
492-6
4-5 ジュリエットが「死体」で発見され、挙式が急遽葬式になる 503-4,2-2と動機共通
(ジュリエットが「埋葬」される) 4-- 51長い前奏+2-7末尾以外+細かい挿入
時間経過を意味する間狂言 (対応なし)
5-1 ロミオがジュリエットの訃報を聞き、毒薬を調達して出発
5-2 ロミオへの手紙が到達せず、ロレンスが慌てて墓地へ向う
5-3 パリスがジュリエットの墓所で回向しているところへ
ロミオが現れて決闘になり、パリスを倒す
ロミオが墓前で毒をあおって倒れる
ロレンスが現れ、ジュリエットが目覚める
51へ統合
決闘の知らせで夜警が接近、ロレンスが慌てて隠れる
ジュリエットは墓前に残ってロミオの剣で自殺
騒ぎで皆が集まり、太守が状況を吟味して両当主を訓戒
522-7末尾(コーダ削除)+3-6冒頭以外

 バレエ版のスコア(総譜)は入手しておらず、 マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団(1973年録音)のCDを聴き取って照合した。 但し、このCDではNo.3で組曲に準拠する形で反復を削除していることを、 他のCDおよび参考文献(2)により確認している。
 編曲(音色)の差異は無視して対応を記述している。 目立つところでは、バレエNo.19のオルガンやNo.48のマンドリンが 組曲1-6や3-5では通常の管弦楽の楽器に置換えられていることや、 バレエNo.49末尾のピッコロなどを含む高音域による部分が組曲2-6では ファゴット中心の落ち着いた雰囲気に変更されていることが挙げられる。 また、組曲1-7の決闘の音楽は、 編曲(音色)的にはバレエNo.35ではなくNo.6に準拠しているし、 組曲2-1中間部の後半に現れる対旋律は、 バレエNo.13ではなくNo.46に準拠している。
 また、参考文献などによると、全体にバレエ版の方が 旋律やリズムが聞き取りやすいように(音色を犠牲にしてでも)編曲されており、 和声も重く作ってあるようである。

バレエと原作のストーリー上の相違

マーキュシオの地位

原作では軽妙な科白回しを使う相方として位置付け、状況説明にも利用

バレエでは状況説明の役割は市民の踊りに替え、 マーキュシオの性格設定のために挿話を創作《バレエ15&18(1-4)》

舞踏会情報の聞きつけも、ロミオ&ベンヴォリオからマーキュシオに変更 《バレエ12(1-3)》

原作ではマーキュシオは太守の親族という設定で、 ロミオを死刑ではなく追放刑とした論拠にもなっているが、バレエでは無視

主人公に踊らせるための変更

冒頭でいきなりロミオが出てくるのは原作には無い《バレエ2〜3(1ー1)》

舞踏会終了直後にも2人が会い《バレエ18(1-4)》、 バルコニーの場の直後にロミオが寝室へ上がってくる《バレエ21(1-5)》 (pas de deuxを増やすためと考えられる)

秘密結婚式への経過

ロレンスが初登場してロミオが単独で庵を来訪する場面が、 原作ではロミオと乳母が街でメッセージを交わす以前(早朝)なのに対し、 バレエでは以後(昼前)になっている。 連動して、以下のような設定の差異がある。 (舞台転換の回数を減らすための改変か?)

バルコニーの場面

原作2-2: 結婚を目指すことまで合意
バレエ1-5: ロミオの求婚に対してジュリエットは未回答

ロレンス初登場(ロミオ単独で庵を来訪)の場面

原作2-3: 直ちに結婚するかどうかまで含めてロレンスに相談
バレエ2-2前半: 最初から直ちに結婚する前提で、 そのままジュリエットの到着を待つ

ロミオと乳母が街でメッセージを交わす場面

原作2-4: ロミオがロレンスと相談した結果をジュリエットに伝えるのが目的
バレエ2-1: ジュリエットが求婚受諾の意思をロミオに伝えるのが目的

ロミオと乳母のメッセージ交換の後

原作2-5: ジュリエットが乳母の帰りを待ちわびる描写がある
バレエ: 対応する場面が存在しない

バレエで削除された設定

  1. ロザラインの存在(従って、舞踏会参加の動機が不明)
  2. パリスの求婚に対して、舞踏会前の段階ではキャピュレットが対応を保留し、 ティボルト死後に急遽受諾を決定した事実 (従って、バレエ10(1-2)での「求婚を請けろ」は 原作では「とりあえず会ってみろ」)
  3. ティボルトの死後、2人が最後の夜を過ごすまでの経緯
  4. ロミオがジュリエットの「死」の真相を知らぬまま戻ってきてしまった事情
  5. ジュリエットの墓前でパリスとロミオが決闘する場面
  6. ロレンスがジュリエット蘇生前に墓所へ来たものの、 夜警接近で慌てて隠れたために後追い自殺を止め損ねたという事実 (バレエ51(5-3)でジュリエットが目覚めたときには、死んだロミオしか居ない)

その他、原作とバレエの差異

バレエ4(1ー1) 原作1-1には登場しないピエトロ(乳母の召使)が登場する
バレエ6(1-1) 原作1-1には登場しないパリスが登場する
バレエ36(2-3) 原作2-3では太守への状況上申は当事者のベンヴォリオが行うが、 バレエではキャピュレット側のみが参集して葬送しながら太守に訴える
バレエ41(3-1) 原作4-1ではパリスが挙式予定の通告のためにロレンスの庵に来ていた ときにジュリエットが来訪してやりあうが、 バレエではジュリエットがロレンスの庵を目指す前に キャピュレット邸にパリスが現れる
バレエ51(4--) 原作では4-5でジュリエットの葬送準備を始めるのみで、 墓所到着の場面は無い
バレエ52(4--) 原作5-3では、悲劇の後の和解は太守が主導して訓戒的に行われるが、 バレエでは太守の出番は無い

組曲からバレエへの対応

1-1 民衆の踊り
22を基本に31を一部入れて、最後は31の終り方
1-2 情景(街の目覚め)
3から単純反復を除去
1-3 Madrigal
16
1-4 Menuet
11から反復的部分を除去
1-5 仮面
12から末尾の予告動機を除去
1-6 RomeoとJuliet(バルコニーの情景)
19からコーダを除去+21から反復的部分を除去
1-7 Tybaltの死
33(冒頭を15の冒頭に置換)+35から前奏を除去+36
2-1 Montagu家とCapulet家(大公の宣言+騎士たちの踊り)
13から第1中間部と第1再現部を除去し、第2中間部の中間挿入も除去して、冒頭に7(=37)を付加
2-2 少女Juliet
10(コーダを41前半部のコーダに置換)
2-3 Laurence僧
28からコーダを除去
2-4 踊り(民衆のお祭り騒ぎ)
24の前半を基本に30の一部も共通部分を利用してつなぎ、コーダを新作
2-5 別れの前のRomeoとJuliet
38+39から末尾の反復とコーダを除去+43から前奏を除去+47前半から前奏を除去
2-6 Antillesの娘たちの踊り
49
2-7 Julietの墓の前のRomeo
51から反復や重複を除去して52の冒頭を付加し、コーダを追加
3-1 泉の前のRomeo
2(冒頭に1の冒頭の変形を付加)
3-2 朝の踊り
4の前半に30の動機が共通する部分を続けて再現部を新作
3-3 Juliet
14の冒頭に44の中間部(29とも共通)と14の一部を組合わせたものを続け、10のコーダを付加
3-4 乳母
26(冒頭に9の冒頭を付加/40とも対応するが直接性は弱い)
3-5 朝のSerenade(Aubade)
48
3-6 Julietの死
52から冒頭部分を除去して前奏を追加

参考文献

  1. 小倉重夫(1995)バレエ《ロメオとジュリエット》op.64, 作曲家別名曲解説ライブラリー(20)プロコフィエフ,音楽之友社
  2. 山口博史(1998)プロコフィエフ《ロメオとジュリエット》組曲 第1番〜第3番解説,全音楽譜出版社

2002年4月20日初稿/2003年2月10日部分訂正/2017年8月28日タグ修正

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