滋賀県域と琵琶湖集水域の一致

 滋賀県域の地理的特徴の一つとして、琵琶湖集水域とほぼ一致するということがあります。 この特徴について考えてみましょう。

 「集水域」は「流域」とも言い、降った雨がその河川や湖沼に流れ込む範囲のことを言います。 厳密には、地下水のことを考えると正確には定義できないのですが、通常は表層流で考えて分水嶺で区切られた範囲を「集水域」と定義します。

一致するってそんなに珍しいこと?

 例えば国内で考えてみましょう。 まず、県内の河川の「集水域」が他県に広く跨がっていない、即ち他県からの大きな流入が無いところがどれくらいあるかというと、「大きな流入」をどう定義するかにもよりますが、大体47都道府県のうちの29±3道県程度が該当します。

 しかし、そのほとんどが「細かい多数の水系から構成」されていて、ほぼ単一水系と看做せるのは、滋賀県以外では山形県(最上川水系)と山梨県(富士川水系)のみです。 2水系で概ね尽くされる所を含めても秋田県(雄物川+阿仁川)と栃木県(鬼怒川+那珂川)が加わるのみ、1水系+細かい多数の水系という構成になっている県を合わせても岩手県(北上川)と福井県(九頭竜川)が加わるのみです。 そして、いずれにしても琵琶湖のような「県域内に降った雨の大部分を集積する場所」は存在しません。

 湖を主体に考えた場合には、日本では集水域が県域を大々的に跨ぐ湖沼は意外と少なく、面積10km2以上の27湖沼(他県と接さない北海道を別にしても16湖沼)のうちでは十和田湖と中海の2つ程度です。 しかし、集水域が特定の県域全体をほぼカバーしてしまうのは琵琶湖しかありません。

 世界に目を向けると、湖そのものが複数の国に跨がる「国際湖沼」が少なくないことがわかります。 琵琶湖博物館のC展示室で2016年のリニューアル以前に比較展示していた6湖沼で見ても、ボーデン・タンガニーカ・北米五大・チチカカの4つが国境を跨いでいます。 バイカル湖は湖自体はロシア連邦内ですが、集水域の約半分がモンゴル国内にあり、結局1国で完結するのは洞庭湖だけです。 B展示室で扱っていたガリラヤ(キンネレット)湖も国境を跨いでいます。

一致していたら何か良いことがある?

 要するに、湖や河川に関する事業や政策が非常にやりやすくなります。 有名なところでは、石鹸運動や、その成果としての滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例があります。 琵琶湖集水域がほぼ滋賀県内で閉じているからこそ、県条例で水質保全のための政策が有効に行えるわけです。

 これが国際湖沼になると、関係国が各々勝手に施策を行って、互いに矛盾することを行ったり、利害関係が対立したりして、なかなか大変なことになることも珍しくないようです。 国内の場合でも、複数の県に跨がる湖だと関係県全体で歩調を合わせないと支離滅裂な政策になってしまうので、その調整が結構大変なことになります。

 また、湖自体は1つの県や国にあって、集水域の少なくない部分が他の県や国にある場合には、その県や国(湖から見ると上流)の住民が湖を「自分たちのもの」と感じにくい傾向があるために、利害関係の対立をもたらす元になります。

実際問題として、どの程度一致している?

地図

 公式数値としては、琵琶湖集水域の面積は3848km2、滋賀県域の面積は4017km2です。 この差の約170km2、即ち全体の4%ほどが、「滋賀県域で琵琶湖流域外」の面積から「琵琶湖流域で滋賀県域外」の面積を差し引いたものということになります。

 但し、この「琵琶湖集水域の面積」には、琵琶湖の水と共に盆地外へ流れ出る瀬田川の集水域(主な支流として大戸川など)が含まれていません。 これは「これらの川の水は琵琶湖には入らない」ということを考えれば当然の結論なのですが、感覚的には琵琶湖集水域の仲間に入れたい部分ですね。 そして、この部分を仲間に入れると、集水域と県域の一致はもっと良くなります。

 このあたりまで含めて細かい面積を出したかったのですが、該当する公式数値が見つかりませんでした。 だからといって、正確な面積計測を行うのも困難なので地図に方眼紙を当てて概算面積を出してみました。 先ほどの「約170km2」と辻褄が合わないので、どこかで話が狂っているのですが、詳細は不明です。 その程度の不確実な情報として御覧ください^_^;

琵琶湖集水域にも瀬田川(滋賀県内)集水域にも含まれない滋賀県域
揖斐川流域 伊吹町藤川・上平寺 約12km2
北川(小浜湾)流域 今津町椋川・杉山・天増川・狭山 約50km2
白川流域 大津市山中・比叡平 約5km2
山科川流域 大津市藤尾地区 約4km2
木津川流域 信楽町神山の一部 約9km2
合計 約80km2
滋賀県域外で琵琶湖集水域
針畑川(安曇川上流)流域 京都市左京区久多 約25km2
足尾谷(安曇川上流)流域 京都市左京区大原尾越 約8km2
百井川(安曇川上流)流域 京都市左京区大原百井・大見 約25km2
柳川(大津市内)流域 京都市左京区粟田口如意ヶ嶽町の一部 約1km2
合計 約60km2
瀬田川(滋賀県内)集水域で琵琶湖集水域に含まれない滋賀県域
大戸川流域 信楽町の大部分・大津市田上・上田上の大部分・水口町と栗東町の一部 約210km2
信楽川流域 大津市大石の東半分・信楽町朝宮地区 約46km2
大石川・曽束川流域 大津市大石の西半分 約20km2
瀬田川右岸流域 大津市石山地区 約25km2
合計 約300km2
滋賀県域外で瀬田川(滋賀県内)集水域(琵琶湖集水域以外)
千丈川流域 京都市伏見区醍醐陀羅谷の一部 約2km2
内畑川流域 宇治市東笠取ほか 約3km2
大石川流域 宇治田原町奥山田ほか 約20km2
合計 約25km2




1999年7月22日初稿/2017年8月11日ホスト移転・最終修正

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