近江が「虹の名所」である理由

 最近、琵琶湖周辺には虹がよく出るという話が広まり、びわこビジターズビューロー(旧滋賀県観光連盟)が「虹予報」を公開したり、イナズマロックフェスで西川貴教が虹色の扮装になったりと、熱心なアピールが展開されている。 残念ながら、本当に琵琶湖周辺で虹が多いかどうかを定量的に調べたという話は、今のところ聞き及ばない。 しかし「虹がどういう場合に見えるか」ということを考えてみると、琵琶湖周辺でよく見られるというのは合理的な話である。

 虹は大気中に浮遊している微小水滴で太陽光が反射する際に、太陽と水滴と見る人との位置関係によって特定の波長(色)の光のみが届くことによって発生する。 よく、プリズムで太陽光が7色に分光するイメージで説明されることがあるが、似て非なるものである。 分光の場合には「1個のプリズム」から7色の帯が発生するが、虹を発生させるのは「多数の水滴」である。 個々の水滴は1色の光しか見る人の目に届けない。 ある特定の色を届ける水滴は、太陽と見る人とで為す角度が一定だから、太陽と正反対の点を中心に丸く並ぶ。 だから、虹の各色の帯は丸いのである。

 というわけで、虹の発生に必要なものは、何よりも「太陽」と「水滴」である。 そして、その水滴は「太陽の反対側」に浮いている必要がある。 さらに重要なのは、その水滴が浮いている場所の背後の風景である。 ゴチャゴチャした近景の人工物ではなく、山の上に青空や白雲が広がっているような遠景であることが理想的だろう。

 ここまで整理したうえで、琵琶湖という場所を考えてみると、確かに理想的であることが判る。 いうまでもなく湖は水の供給源である。 湖上や周辺の大気に大量の水滴が浮いている可能性は高いだろう。 そして、湖上には人工物は圧倒的に少ない。 湖上大気の背後には、虹が綺麗に見える背景が広がっている可能性が高いのである。

 さらに、これは湖東と湖西で虹が見やすい時刻が違っている可能性も示唆する。 湖に向かって立った時に太陽が背後に来ることになる時刻が違うからである。 湖東では太陽が東側に来る午前中に、湖西では太陽が西側に来る午後に、虹が発生しやすいということになる。

 琵琶湖が「虹の名所」なのは、琵琶湖が「水滴の供給源」であって、かつ「虹が見やすい背景」でもあるからだと考えられる。



2018年12月31日初稿

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