回転実験室が琵琶湖博物館にあった理由

 滋賀県立琵琶湖博物館では、リニューアル工事を始める2015年11月まで「回転実験室」を運用していました。 一見「琵琶湖の環境」と関係の無さそうな回転実験室。 実験のあと、担当の展示交流員さん(展示室に常駐するスタッフ)さんに「面白かったけど、琵琶湖とどういう関係があるの?」という質問をする人も少なくなかったとか……

 実は、「琵琶湖」を知るための「基礎」に関わる話なんですね。問題は、

「基礎」である「回転実験室」

「応用」である「琵琶湖」
との関係
を説明するのに、いくつかの段階を踏まねばならないことです。 というわけで、段階を追って説明してみたいと思います。

1. 琵琶湖を知るには流れを知らねば……
例えば、琵琶湖の生物がどこに居るかを考えるには、生物が流れに乗ってどこまで流れるか、あるいはいかに流れに抗するかを考えることが欠かせません。 水質について考えるうえでも、どこにある何を含んだ水がどこへ流れていくかを知ることが不可欠です。 つまり、水の流れを扱う物理学的な知識が必要なのです。
2. 水の流れって何で決まる?
例えば、川の流れは落差でかなりの部分が決まります。 でも「溜まり水」である海や湖や池の水の流れは、風や日射や表面冷却に支配されます。 そして、海や大きな湖の水の流れに大きな支配力を及ぼすのは地球の自転の影響です。
3. 琵琶湖って大きいから……
地球の自転の影響は、ある程度スケールの大きな現象でないと目立ちません。 正確には、現象の時間スケール、つまり揺れが一往復する時間や流れが一周する時間で決まります。 つまり、これらの時間が地球が1回転する時間より非常に短ければ自転の影響は無視できるのです。 現実的には、時間スケールの大きい現象は空間的にも大きなスケールで起こるので、ある程度以上に大きな海や湖なら自転の影響を受けることになります。 そして、その「最小限の大きさ」が概ね琵琶湖くらいなのです。 つまり、琵琶湖は「自転の影響を受けるほど大きい」ということです。
4. 自転の影響って不思議で理解困難
自転の影響を受けた世界を知る手段である「回転系の力学」は、一定の数学的手法で記述することができます。 しかし、この数学的記述は、私たちの直観的理解を容易に寄せつけないものなのです。 これでは博物館に展示することができません。 数学の専門知識が無い一般の来館者の方にも理解してもらわねばならないからです。
5. とりあえず不思議を体感して欲しい
でも、だからって何も展示しないわけにはいきません。 そこで、とりあえず「理屈抜き」で、不思議な「回転系の力学」の世界を体感していただこうというのが、回転実験室の趣旨です。 そして、この不思議な世界を体感された方の中から、「回転系の力学」に興味を持って自ら探究される方が、少しでも現れれば大成功だと思っています。

1999年9月25日初稿/2017年8月3日ホスト移転・最終改訂

戸田孝の雑学資料室へ戻る
Copyright © 1999 by TODA, Takashi