冒頭導入部に 「直交座標では正規基底成分を考えることによって 区別の必要が無くなり、記述が平易になる」と書いた。 この「正規基底成分」というものの意味が以下の話のキーポイントになる。
この文章では、ベクトル場の基底は常に互いに直交する単位ベクトルであった。 即ち、ベクトルの大きさは一定で、その向きが一定でなく場所によって回転して いたのである。通常のベクトル解析の教科書では殆どそうなっているはずである。 このような基底を単位ベクトルに正規化されているという意味で「正規基底」と呼ぶ。
直交曲線座標では正規基底を用いることが有益であった。 しかし、より一般の直交とは限らない座標での体系を構築しようとすると、 この「基底ベクトルの大きさが一定」というのが足かせになって 綺麗にならないのである。また、Euclidとは限らない一般の空間 (例えば相対性理論の空間)への発展も制限されてしまう。
そこで、微分幾何学の一般論では座標軸の目盛間隔giに比例して 伸縮する基底ベクトルを考える。これを「自然基底」と呼ぶ。 「自然基底」を導入すると、場所によって基底ベクトルが伸縮するために、 ベクトルに二種類の区別が必要となる。
まず、「長さ」という意味で物理的意味を持つベクトルを考える。 例えば速度ベクトル(単位時間当り物体が進む長さ)がその例にあたる。 ベクトルの実体が不変なまま基底が伸縮するとどうなるだろうか? 例えばある方向の基底ベクトルの長さが1からgiに変ったとする。 座標軸の目盛、つまり「ものさし」がgi倍に伸びたのだから、 成分の値は 倍になる。 結局ベクトルの成分は基底ベクトルの伸縮とは逆に変化することになる。 これを基底と反対に変化するという意味で「反変ベクトル」と呼ぶ。
次に、スカラーの勾配ベクトルを考える。「ものさし」がgi倍に 伸びれば「単位長さ」がgi倍に伸びる。 従って、「単位長さ当りのスカラーの変化量」もgi倍になる。 結局ベクトルの成分は基底ベクトルの伸縮と一緒に変化することになる。 これを基底と共に変化するという意味で「共変ベクトル」と呼ぶ。
実際問題として、「反変ベクトル」と「共変ベクトル」とは 「指標の上げ下げ」と呼ばれる操作によって一対一に対応する。 その意味で、実体としては同じベクトルを二通りの視点で見ているだけと 考えるべきかもしれないが、そのあたりの話は専門書に譲る。
インターネット向け補足その1(2014.11.30) |
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前ページで推薦した、田代や石原の著書では、 まず「斜交直線座標」を導入して「共変/反変」の概念を説明し、 続いて「自然基底」に基づく一般曲線座標を導入している。 その後で、直交曲線座標に話を限定し、 この文章で説明してきたような正規基底に基づく体系が 構築可能であることを説明している。 (石原は「正規基底成分」のことを「物理的成分」と呼んでいる。) 即ち、このページとはアプローチが全く逆向きであることに注意されたい。 |
インターネット向け補足その2(2015.1.2) |
物理学などへの応用を意識した微分幾何学(テンソル解析)の教科書としては、他に
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テンソルに関しては各階成分に対して各々「反変」「共変」を 独立に与えることが可能である。特に二階テンソルで 一方(例えば行成分)が反変で他方(例えば列成分)が共変であるものは よく使うので「二階混合テンソル」という名前がある。
なお、直交曲線座標ではベクトルの成分の間に次の関係がある:
反変ベクトルのxi成分をvi、共変ベクトルのxi成分をvi、
正規基底を用いた場合のxi成分をViとおくと、