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微小歪

歪を定義するのはなかなか難しい。教科書でよく使われている定義では 曲線座標でどうなるかがわかりにくい。 ここでは応用が利きやすい、しかし直感とも結びつく形に 歪を定義し直すことから始める。

歪というのは、物体の変形の度合いを示すものである。変形が起る場合には、 必ずどこかで「伸び縮み」が起っている筈である。 そこで、物体の中の任意の位置にある微小線分の長さがどの程度 変化(伸び縮み)しているかということを考える。

変形前に微小線分の一端が $\hbox{\rm\bf x} = (x_1,x_2,x_3)$にあり、 もう一端が $\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d} = (x_1+d_1,x_2+d_2,x_3+d_3)$に あるものとする。変形によって、各点が $\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x}) =
(v_1(\hbox{\rm\bf x}),v_2(\hbox{\rm\bf x}),v_3(\hbox{\rm\bf x}))$だけ変位したものとすると、 $\hbox{\rm\bf x}$にあった点は $\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x})$へ、 $\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d}$にあった点は $\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d}+\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d})$へ移動する。 微小線分の長さと方向をベクトルで表すと、変形前は $\hbox{\rm\bf d}$、 変形後は $\hbox{\rm\bf d}+\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d})-\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x})$となる。

ここで、 $\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d})-\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x})$という量について 考えてみると、これはベクトル場 $\hbox{\rm\bf v}(\hbox{\rm\bf x})$の中で 最初 $\hbox{\rm\bf x}$の位置にいた観測者が $\hbox{\rm\bf x}+\hbox{\rm\bf d}$にまで 移動した時に感じる変化である。これは先に述べた移流に他ならない。 結局変形後の微小線分は $\hbox{\rm\bf d}+\mathop{(\hbox{\rm\bf d}\cdot\mathop{\hbox{\rm grad}})}\hbox{\rm\bf v}$となる。

さて、重要なのは微小線分の長さがどれだけ変化したかである。 この変化量を$\delta$とおくと、

\begin{displaymath}\delta = \left\vert\hbox{\rm\bf d} + \mathop{(\hbox{\rm\bf d}...
...box{\rm\bf v}\right\vert - \left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert\end{displaymath}

となる。計算の便宜上、まず長さの二乗の変化率を考える。

\begin{eqnarray*}\frac{\left\vert\hbox{\rm\bf d} + \mathop{(\hbox{\rm\bf d}\cdot...
...eft(\frac{\delta}{\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert}\right)^2
\end{eqnarray*}


微小歪を考えているから $\hbox{\rm\bf v}$は微小量であり $\delta \ll \left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert$、 即ち最後の第2項は無視できる。従って、長さの変化率は

\begin{displaymath}\frac{\delta}{\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert}
= \frac{...
...\bf d}\right\vert^2}
{2\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert^2}\end{displaymath}

右辺を展開するにあたって微小変位 $\hbox{\rm\bf v}$の二次の項を無視すると、

\begin{eqnarray*}\frac{\delta}{\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert}
&=& \frac{...
...tial }{\partial x_m}\left(\frac{v_l}{g_l}\right) d_l d_m \right)
\end{eqnarray*}


さてこの右辺を、ベクトル $\hbox{\rm\bf d}$を使った次のような 行列演算の形(二次形式)で表すことを考える。

\begin{displaymath}\frac{\delta}{\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert}
= \frac{...
...t)
\left(\begin{array}{c} d_1 \\ d_2 \\ d_3 \end{array}\right)\end{displaymath}

この行列は微小線分の長さの変化率を その方向ベクトル $\frac{\hbox{\rm\bf d}}{\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert}$の関数として与える。 これが歪テンソルである。 (右辺の係数はeij $\left\vert\hbox{\rm\bf d}\right\vert$に依存しないように 決めたものである。両辺とも無次元量であることにも注意。)

簡単な計算により、非対角成分に関しては対称成分の和 $e_{ij}+e_{ji}(i\not=j)$に意味があり、eijejiに どう分れているかは全く無意味であることがわかる。そこで、 eij=ejiとなるように分けることにする。その結果、次のようになる。

\begin{displaymath}e_{ij} = \frac{\delta_{ij}}{g_i} \frac{\partial g_i}{\partial...
...ac{\partial }{\partial x_j} \left(\frac{v_i}{g_i}\right)\right)\end{displaymath}

特に対角成分については

\begin{displaymath}e_{ii} = \frac{1}{g_i} \frac{\partial v_i}{\partial x_i}
+ \...
...elta_{il} \frac{v_l}{g_i g_l} \frac{\partial g_i}{\partial x_l}\end{displaymath}

但し、 $\check\delta_{ij} \mathrel{\mathop=\limits^{\scriptscriptstyle def}}1 - \delta_{ij}$である。 直交直線座標(giが全て定数1)のとき、

\begin{displaymath}e_{ij} = \frac{1}{2} \left(\frac{\partial v_j}{\partial x_i} + \frac{\partial v_i}{\partial x_j}\right)\end{displaymath}

となることは容易に示せる。



Ichiro Tamagawa 平成11年9月24日