そこで、先のベクトルの調和微分と 同じ手を使うことにする。 まず、直交直線座標では、局所基底は至る所一定であるから、 安心して「成分別移流」を考えることができる。
歴史的(直感的)定義:ベクトル場
とベクトル場
に対して、 直交直線座標での
の成分viの各々の
による移流
を成分とするベクトル場を
の
による移流と呼び、
と書く。
この定義が座標変換に対して不変であることは別に証明せねばならない。 そのためには、この定義で得られるベクトル場が既に(座標変換不変であると) 知られている微分演算の組合せで表されることを示せばよい。 これがうまくいけば、求まった微分演算の組合せを「どんな座標系でも使える 新たな定義」として採用することができる。 これは次のようなかなり複雑な表現になる (はっきり言って、これを最初に考案した人は偉いと思う)。
微分演算子による定義:ベクトル場
とベクトル場
に対して、
![]()
と書いての
による移流と呼ぶ。
直交曲線座標においてこの定義の右辺を展開して整理すると意外と単純になる。
まず、i = lの時は第2項と第3項が相殺してしまうことから、
の場合のみを考えれば良いことがわかる。
そこで、座標の値d毎の座標軸でできる、xixl面上の網の
一つの網目を考える。これはほぼ長方形であるが、少し歪んでいる。
例えばxi軸に平行する二辺を考えると
その長さはほぼgidであるが、xl軸の正の向き側にある辺の方が
だけ長い。
そのためxiを大きくする方に網目一つ移動すると、
局所基底が
だけ回る。
観測者はこの局所基底の回転に伴うvlの回転によってviの増加と
vlの減少を感じる。このうち後者は回転角の二次微小量となるが、
前者は
となる。
実際には観測者は網目を
個だけ進むから、
これを乗じて第2項が得られる。
第3項も同様にしてxlを大きくする方への移動を考えれば解釈できる。
注:微分幾何学では勾配の概念の一般化として「共変微分」、
内積の概念の一般化として「縮約」というものが定義されている。
この言葉を使って
の共変微分
(これは「二階混合テンソル」というものになる)と
とを
縮約したものを考えると、確かに今定義したベクトル場の移流と一致することが
比較的容易に示される。
要するに何が言いたいかというと、
という表現も
コソコソせずに堂々と使って良いのである。