「テレビを叩いて直す」のは合理的か

 古いPCのディスプレイを適宜使いまわしているのだが、そのうち1台の寿命が近いようで、時々映らなくなってきた。 それだけなら別に大した話ではないが、典型的に「叩けば直る」状態になってきたのが面白い。

 テレビ(テレビジョン受像装置)を「叩けば直る」というのは昔からよくある話である。 最近それほど聞かなくなっているのは、アナログ世代の話だから……ではなく、ブラウン管が液晶や発光ダイオードなどに置き換わっているからであろう。 冒頭でコメントしたのも、ブラウン管ディスプレイの生き残りである。

 「叩けば直る」を「非科学的」と評する人が時々居るのだが、そんなことはない。 科学的に合理的な説明がつく話である。 ネットで検索すると、電気製品の不調の原因の多くが「接触不良」であり、叩くことによって接触状態が改善されることにより直るという説明が多数出てくる。 可動部(回転部など)の固着が解消される効果や静電気を解放する効果を指摘する情報も多い。 ブラウン管の場合には、電子線を曲げるための磁界を発生させる磁石の位置ズレという問題もあるらしい。 しかし、多くの情報では、肝腎なことが抜けている。 この話は「制御工学」の観点からも合理的なのである。

 不調の原因が「接触不良」や「磁界のズレ」だとすると、叩くことによって接触状態が改善されることもあるだろうが、逆に悪化する可能性もある。 にもかかわらず、叩くことによって「直る」のは何故かというと、「直れば叩くことを止める」からである。 直らなければ更に叩くだろうし、直す必要が無いものを「直そうとして叩く」こともない。 「叩いて直す」というよりも「直るまで叩く」という方が近いのである。

 つまり、叩いている人が「状態を見ながら、直るまで叩く」という行動を採ることによって、絶妙のコントロールを施していることになる。 単なる「デタラメ」な行動ではないのである。



2018年6月19日初稿/2018年6月28日最終改訂

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