道路立体交叉分類名称の体系化

 ちょっとしたきっかけで、道路の立体交叉(立体交差)の形状分類についてネットで調べていて、大いに混乱した。 分類名称が余りにも非体系的だったからである。 カテゴリが異なっていて並列するべきでない分類を、思い付き的としか表現しようの無い順序に雑多に並べていて、全体像が全く見えて来ない状況であった。 そこで、自分の頭の中を整理するために、諸々の分類名称をきちんとカテゴリ化して体系付けてみようと試みたのが、本稿である。

 「完全立体交叉」「不完全立体交叉」という分類方法もあるようだが、どちらかというと「結果的にそうなった」という分類なので、本稿では分類体系には採用しなかった。 「不完全立体交叉」とは平面交叉を含むもので、本稿では「★」で表示する。 双方の中間的な存在として「織り込み型」があり、本稿では「☆」で表示する。 「織り込み型」とは、動線を平面的に全く交わらせないようにするのではなく、一旦合流して反対の方へ分流する形にすることで「平面交叉」では無くするものである。 立体構造を不要にし、複数の経路を部分的に共通化して所要用地を減らす効果があるが、合流や分流の機会が圧倒的に多くなることによる危険性の増加や速度低下が欠点と考えられる。

 なお、立体交叉そのものについての用語にも混乱があるようである。 高速自動車国道では高速道路体系全体の出入り口にあたるものをIC(インターチェンジ)と呼び、体系内で高速道路同志が交叉するところをJCT(ジャンクション・ターミナル) と呼んでいるようである。 しかし、都市高速道路ではJCTに相当するものをICと呼び、ICに相当するものをランプと呼んできた。 最近統一しようとする動きがあるらしいが、本稿ではこれらの用語を基本的に避けることにする。 但し、ランプという言葉は「本線」に対する「接続路」という意味で用いることにし、「ランプ路」と表記する(「ランプウェイ」では長くなるので)。

 ちなみに、本来なら本稿は説明図を逐一付けるべき内容だが、そんな余裕が全く無いので、当面は文章のみとさせていただく。 主な形状類型の概念図や実例はネット上に多々転がっているので、参照されたい。

丁字路を立体化するパターン

クローバー型(丁字)

 「クローバー型」という名称は、本来は十字路を立体化する方法に与えられた名称(四ツ葉クローバーの形になることに由来)であるが、単純に半分を省略すれば丁字路になるので、同じ名称で呼ばれているようである。 ランプ路同志が一切交叉せず、必要な用地もコンパクトに納まる、最も素朴な設計である。 しかし、流出車と流入車の動線が本線上で平面交叉するため、立体化の意味が半減してしまうという重大な欠陥があり、近年は用いられることが少なくなっているらしい。

トランペット型

 丁字クローバー型の本線と交叉するランプ路の一方を逆に(つまり、他方のランプ路と同じ方に)曲げることにより、本線上での動線平面交叉を避けたもの。 本線と交叉するランプ路が回り込んで本線に接続する部分の形状が金管楽器のラッパ部に似ていることに由来する命名と思われる。 楽器を見慣れた目から見ると、トランペットのような「細長い」金管楽器ではなく、むしろホルンのような「丸っこい」金管楽器の形状に近い。

準直結Y型

 本線と交叉するランプ路を、分岐の際に立体交叉させて両方ともクローバー型とは逆に曲げることによって、本線上での動線平面交叉を避けたもの。

直結Y型

準直結Y型では大きく迂回する形になるランプ路を、最短距離で「直結」させたもの。 直結と準直結の境目がどこにあるのか、分類事例からは必ずしも明らかではないが、ランプ路同志が立体交叉して分岐した後で各々本線と立体交叉する場合に「直結」だと定義するのが合理的だろう。 直結型の場合には、本線とランプ路の差異が無くなるような形に変形させると、3方向に伸びている対等な3本の本線が行き合う三叉路の立体化に応用することができる。

平面Y型★

 Y型で発生するランプ路同志の立体交叉を平面交叉に置き換えた簡略型。 平面交叉が発生するため、高速道路で用いられることは少ない。 クローバー型と比較すると、平面交叉を本線上からランプ路上へ移動させることで悪影響を軽減する効果がある。 平面交叉部分やランプ路同志が合分流する部分を、流線形状の無い角張った形とすれば、用地に「膨らみ」が不要となるため、一般高架道路における比較的交通量の少ないランプ路に、多く採用されている。 この場合、ダイヤモンド型の平面交叉する本線が行き止まりになった形状と考えることもでき、「集約ダイヤモンド型」という不思議な呼称で呼ぶ場合もあるらしい。

ロータリー型(丁字)☆

 平面Y型の平面交叉を、交叉点形状ではなく、一旦合流して反対の方へ分流する形(織り込み型)にしたもの。 分流時にもと来た方へ進むことによってUターンすることが可能になる。 これを、通行の自由度を増すものとして肯定的に評価するか、余計な動きを可能にして混乱を招くものとして否定的に評価するかは、状況次第である。

十字路を2つの立体化丁字路に分解したパターン

ダブルトランペット型・ダブルY型

 交叉する2つの本線を直接接続せずに、1本の「大きなランプ路」を設定して、各々の本線と立体化丁字路で接続した形。 「大きなランプ路」に料金所を設定する必要がある場合に用いられることが多い。 2つの立体化丁字路が共にトランペット型であるものを「ダブルトランペット型」、共にY型であるものを「ダブルY型」と呼ぶ。 それ以外の組合わせも存在し得るハズだが、特別な名称は見当たらない。

十字路を直接に立体化するパターン

クローバー型(十字)

 丁字路を立体化する場合のクローバー型と、利点も欠点も同様である。

(仮称)全直結型

 全てのランプ路を、最短距離で結ぶ「直結型」としたもの。 現実に用いられている例は見当たらないが、理念的存在として考えておくと分類が整理しやすい。 現実に用いられない理由は、4本の右折ランプ路(左側通行の場合)が全て中央に集まってしまい、本線と併せて6層の立体交叉(右折ランプ路が本線交叉位置より手前で右へ離れる形にして相対する右折ランプ路と重ならないようにした場合でも4層)を形成してしまうからであろう。

タービン型

 (仮称)全直結型の右折ランプ路(左側通行の場合)を大きく迂回させることによって、ランプ路同志の立体交叉が1ヶ所に集中することを避けたもの。 2つの準直結Y型を向かい合せに組合わせ、分岐前のランプ路をつないで他方の本線としたもの(クローバー型における丁字路形と十字路形の関係と同様)とほぼ同じになるが、Y型の対称性を保ったままだとランプ路同志の立体交叉が本線との立体交叉と重なってしまい、立体交叉の多層性が充分に軽減されない。 そこで、通常は、右折ランプ路が270゜回る間に徐々に外へ出ていく(または内へ入っていく)形にして、本線から分流する(または本線に合流する)位置の付近で他のランプ路と立体交叉し、間の90°の区間では3本のランプ路(左折ランプ路を含めると4本)が水平に並ぶようにする。 三重の螺旋状になったランプ路上を車両が同じ方へ回っている様子が、回転するタービンの羽根を連想させることに由来する命名と思われる。

ロータリー型(十字)☆

 タービン型の右折ランプ路(左側通行の場合)を立体交叉させるのではなく、一旦合流して分流するという形(織り込み型)にしたもの。 左折ランプ路(左側通行の場合)も合流に組込んでしまうことが多い。

(仮称)対向トランペット型

 2つのトランペット型を向かい合せに組合わせ、分岐前のランプ路をつないで他方の本線としたもの(クローバー型における丁字路形と十字路形の関係と同様)。 トランペット型の「ラッパ部」を真向かいに配置する方法と、他方の本線を挟む位置に斜め向かいに配置する方法とが考えられる。 ランプ路同志の立体交叉を少なくし、かつクローバー型のような本線上での動線平面交叉が発生しないという意味で優れた方法であると思われるのだが、現実に用いられている例は何故か見当たらない。 互いに向かい合うトランペット構造に属するランプ路同志の立体交叉が本線との立体交叉と重なってしまい、多層化して構造が大袈裟になる(あるいは、それを避けようとすれば、クローバー型と同様の本線上での動線平面交叉が、数は半分になるが発生してしまう)ことが、用いられない一因かもしれない。

十字路を非対称に立体化するパターン

 通常の立体化十字路に4本ある右折ランプ路(左側通行の場合)のうち相対する2本を、最短距離で結ぶ「直結型」または準直結Y型の要領で迂回させた形(準直結型)のランプ路に変更したもの。 迂回の無い「直結型ランプ路」の場合、それが本線交叉位置に接近して立体交叉が多層化して構造が大袈裟になるか、さもなくば本線交叉位置から大きく離して所要用地が広くなることを容認するかの二者択一は避けられない。 しかし、それでも(仮称)全直結型よりはマシである(4層ではなく3層に留まる)ので、特定のランプ路に特に大きな交通量が見込まれる場合には、そのランプ路を「直結型」にする形で設置される。 また、直結するほどではないがそれなりの交通量が見込まれる場合には、準直結路を設定することで多層性を軽減するという選択もあり得る。

対向ループ型

 クローバー型に「直結型」または「準直結型」のランプ路を持込んだもので、「変形クローバー型」と呼ばれている場合もある。 クローバー型の欠陥である本線上の動線平面交叉も解消される。 なお「不完全対向ループ型」という分類区分を立てている例が見受けられるが、実際の分類事例を見ても違いが判らず、何が「不完全」なのか不明である。

ハーフタービン型

 タービン型に「直結型ランプ路」を持込んだもの。 (タービン型は元々「準直結型ランプ路」で成り立っているから、持込むのは「直結型」しかあり得ない。) 三重螺旋が一重になるため、「タービン」には見えなくなってしまう。

十字路の一方の本線のみを立体化するパターン

ダイヤモンド型★

 一方の本線のみを完全な立体交叉とし、そこから別れたランプ路を他方の本線と平面交叉させるもの。 ランプ路は立体交叉する方の本線と平行な「側道」の形状となり、本線の用地を少し太めに確保すれば済むという利点がある。 「側道」まで含めた全体が平面交叉する方の本線に向かって膨らんでいく形になり、これを両側から挟み込んで配置した結果がカードゲームの「ダイヤモンド」マークに似ていることに由来する命名と思われる。 ランプ路の入口が方面別に分裂した形になるため、一方を省略すればハーフIC(片方にしか出入りできないインターチェンジ)として機能する。

ハーフダイヤモンド型★

 ダイヤモンド型のランプ路の一方を本線と立体交叉させて他方のランプ路と合流させ、立体交叉する方の本線から離れた位置で他方の本線と平面交叉させるもの。 命名の元になった「ダイヤモンド」マーク型の形状が、ランプ路を合流させた側にしか発生せず、マークが半分に欠けた形になることに由来する命名と思われる。 機能的な特徴はダイヤモンド型と基本的に同じである。 通常はランプ路の入口を向かい合せにして平面十字路にすることが多いが、異なる位置で斜め向かいに接続させることによって2つの平面丁字路に分離するという応用も考えられる。

不完全クローバー型★

 クローバー型十字路に4組8本あるランプ路の半分を無くした形という意味での命名と思われる。 しかし、機能的に考えると、クローバー型の最大の欠陥である本線上での動線平面交叉が発生しないなど、クローバー型の変形と考えるのはあまり合理的とは言えない。 あえてクローバー型を基準に考えると、ランプ路の一方を平面交叉にすることによって、その平面交叉の反対側のランプ路を不要にしたものと表現できる。 また、トランペット型をはじめとする立体化丁字路で取扱い方が問題となる、本線と立体交叉するランプ路を無くしてしまい、本線の反対側にも同様の構造を設けることで機能を全うさせたものと考えることもできる。 2つのランプ路が平面交叉する本線の同じ側に来る形と反対側に来る形とが考えられるが、機能的には平面交叉の流れが変わるだけの違いである。


2008年2月6日初稿/2008年2月14日最終改訂/2012年7月17日ホスト移転

戸田孝の雑学資料室へ戻る

Copyright © 2008 by TODA, Takashi