「出身地」って何?

 「学会のメーリングリスト」というものに、いくつか入っています。 早いものだと、小規模の研究会では1998年11月、 大きな学会では2001年新年早々に稼動開始していますが、 2003年に入って新規稼動開始が相次ぎ、 短期的な研究会も含めると10個近くに増えています。 その中に、民間の無料メーリングリスト(広告が送られてくる)を 利用しているのがあって、元締からのメールマガジンが来るようになりました。 内容がミニコミ誌のノリで、まあ面白く読んでいます。 読み捨ててますけど^_^;

 そのメールマガジンで、 「出身地とは何だろう」ということが話題になっていました。 確かに、転勤族と呼ばれる人だと、自分の出身地が何処なのか 自分でも解らないということになりますよね。 検索エンジンで「出身地の定義」で検索してみても、 そういう事例がいろいろ出てきて面白いです。

 私自身について言うと、大学3年目で大学の近くに下宿するまで、 ずっと住んでいた場所というのがあって、 比較的安定した「出身地」を持ち合わせていると言えそうです。 ところが、この「出身地」は「出生地」では無いのです。 生まれ落ちた後、「出身地」の家に「ただいま」と帰ってきたのが生後6ヶ月のこと。 しかも、その「出生地」たるや、海外ですもんね。 一応、7歳のときに2週間ほど滞在したので、 「行ったことも無い出生地」では無いのですが、 到底「出身地」と呼ぶ気になれる場所ではありません。

 海外旅行に「出掛けた回数」より「帰ってきた回数」の方が1回多いと言って、 話し相手をケムに巻くというのを、自分自身の持ちネタにしています。 「びわ湖を語る50章」を分担執筆したときに、 著者略歴を載せることになって、サンプルに「○○市生まれ」とあったので、 一応事情を説明したうえで「大阪市出身」と書いたら、 編集者が勝手に「大阪市生まれ」に修正してしまいました。 これは腹が立ちました……>_<

「育ったところ」としての「出身地」

 個人的な話はともかくとして、 一般論として「その人の人格形成に一番影響を与えた土地」という考え方は 1つの見識であろうと思います。 「成長期・思春期を迎えた場所」「義務教育を受けたところ」という基準も それなりに納得できるものです。

 ただ、「義務教育」というより「初等教育(小学校教育)」という方が 妥当かなという気がしないでもありません。 「思春期を“迎えた”場所」であって 「思春期を“過ごした”場所」ではないという感覚ですね。 精神的な意味での「親からの独立」が始まる時期は、 「故郷を離れて……」という感覚になれる時期でもあると思うのです。 それ以降の時期に過ごした場所は、人格形成に大きな影響があったとしても、 あくまで「第2の故郷」以上のものでは無かろうと思います。

 つまり、「その人の人格形成に一番影響を与えた土地」という定義は 微妙に違うと思うんですね。 むしろ「その人の人格形成の基礎となっている土地」とでも 定義するべきではないかと思います。

「ルーツ」としての「出身地」

 ところで、「出身地」という用語は、 そういう「幼少期を過ごした故郷」というニュアンスの他に、 その人の血統的な根拠地、即ち「ルーツ」というニュアンスでの用法もあります。 ペルー前大統領アルベルト=フジモリ氏の出身地が熊本市河内町である などという用法は、そういう意味ですよね。

 出身地とは「本籍のあるところ」だという考えも、この意味の「出身地」です。 但し、これは戦前の戸籍制度が前提になっていることに注意してください。 戦後の戸籍でも戦前の制度の感覚で本籍地を決めている人が多いのですが、 制度的には「本籍」は「出身地」を規定するものではありません。

 「ルーツ」としての「出身地」を私自身について求めるとすれば、 愛媛県周桑郡小松町だ ということになります。 まあ、私は小学校入学前に一度訪問したことを覚えていますし、 大学院時代に松山で研究会があったときに、 ことのついでと思って(暇だけはある学生身分でしたから^_^)、 現地の親戚を訪ねて祖父の墓参りをしたことがあります。 つまり「ルーツ」として親しみのある場所です。

 しかし、現代人のうち 「育った場所としての出身地」と「ルーツとしての出身地」に齟齬がある人で、 私のように「ルーツ」に親しみのある人は少ないのではないでしょうか。 「ルーツ」に従兄弟程度の近い親戚が居れば、 夏休みに遊びに行った記憶があったりもするのでしょうが、 それ以上に離れたら、行ったことも無いというのも珍しくないと思います。 戦前だと、例えば徴兵関係の手続きは全て本籍地で行われましたし、 その他諸々の場面で「本籍地」との関わりを持たざるを得なかったのですが、 今はそういう要因もありませんしね。




2003年12月2日初稿/2006年5月24日微修正(検索語対応)/2012年7月17日ホスト移転

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