金田一耕助映像化での原作からの改変の継承

 何度も映像化されている小説作品は、先行する映像化で有名になった改変が以後の映像化にも継承され、それが原作での設定であるかのように誤解されてしまうことがある。 1970年代後半の劇場映画化でブームになった横溝正史の金田一耕助登場作品でも、該当する事例が多々ある。 代表的な事例を整理してみた。 なお、以下で「〜年版」に続く( )内は金田一耕助を演じた俳優名である。

悪魔の手毬唄:仁礼文子の死体発見状況

 死体が葡萄酒醸造樽に漬けられている構図が有名だが、これは1977年劇場版(石坂浩二)での改変である。 原作では樽の横に倒れていた。 しかし、1990年版(古谷一行)や2019年版(加藤シゲアキ)でもこの改変を踏襲しており、2009年版(稲垣吾郎)では樽の上に吊るされる設定になっている。 なお、1977年テレビ版(古谷一行)は「樽の外」という原作の設定に従っているが、原作でうつ伏せであるところを仰向けに変えている。

八つ墓村:森美也子の人物像と里村典子の存在

 主人公である寺田辰弥が森美也子と深い仲になり、その後で犯人であることが知れて鍾乳洞内で争うという展開が有名だが、これは1977年版(渥美清)での改変である。 しかし、この改変が1978年版(古谷一行)と1991年版(古谷一行)でも踏襲され、その間は他の映像化が無かったため、この改変されたイメージが定着してしまった。

 原作では森美也子には里村慎太郎という想い人があり、それが犯行動機の根底にあるのだが、それも含めて人物関係・ストーリー・トリックが極めて複雑である。 1977年版はストーリーを若干変更して人物関係を整理し、里村慎太郎を抹消すると共に、その妹で寺田辰弥と恋仲になる里村典子も抹消してしまった。 里村兄妹を抹消する代わりに採用されたのが、主人公と犯人が恋仲になってしまうという展開だと考えられる。

 この問題については別稿で詳論している。

犬神家の一族:犬神佐清のマスク

 真っ白い不気味なマスクが有名だが、これは1976年版(石坂浩二)での改変である。 原作では遠目ではマスクだと判らないくらい精巧に作られており、よく見ると無表情で不気味という描写になっている。 しかし、ほとんどの映像化が「白いマスク」を踏襲している。

 1976年版以降の映像化では唯一、2020年版(池松壮亮)が精巧なマスクとしている。 ただし、異様に大きな被り物である。 2020年版は長編小説を30分の短編でまとめるという無謀な映像化を無茶な演出で実現した作品なので、このマスクも「ギャグ」と受け止めた人が少なくないと思うが、実は他の多数よりは原作に近い演出なのである。

 この問題については、各映像化を具体的に比較するテキストが多々あり、図入りで解説している例もある。


2020年10月2日初稿

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