合併市町村における発信情報継承への提言

 滋賀県内市町村の6割が「公式ページ」を持つようになった2000年以来、県内市町村の施設情報発信を継続的に観察している。 その目的は、博物館施設(特に公立施設)の情報発信のありかたを探るという、博物館学の研究課題を進める上での基礎情報の整備である。

 いわゆる「平成の大合併」により、多数の市町村合併が行われ、市町村の「公式ページ」も連動して統合せざるを得なくなっている。 この状況を、合併前から発信されてきた情報が適切に継承されているか、継承に際しての移行措置が適切に行われているかという観点から観察した結果を整理し、それに基づく提言を述べる。

コンテンツさえ継承すれば良いのか?

 合併後のWWWページを見ると、時間や労力を充分にかけて準備したことや、あるいは逆に時間が無くて大慌てで体裁だけ整えたことが明らかに判るところがある。 とはいえ、時間や労力をかけたからといって、良いものができているとは限らないようである。

 滋賀県内の2町が合併してできた市のページで、合併当日に旧町ページのコンテンツを全部削除してしまったところがある。 新市ページのコンテンツは旧町ページのコンテンツの内容を新たなデザインでレイアウトしたもので、みたところ、一通りの内容はきちんと継承されているようである。

 しかし、この方針には大いに問題がある。 別稿でも論じているように、WWWというのは、トップページさえ保持していればどのように構造変更しても良いというものではない。 むしろ、中に含まれる個々のコンテンツに対して、検索エンジン・静的リンク集・ブックマークからの直接のリンクが多数入ってこそ、価値が高まるものである。

 新サイトにコンテンツを移行したからといって、旧サイトのコンテンツを即日削除したのでは、折角獲得した「外部からのリンク」という無形の資産を一気に失い、サイトの価値を大きく落としめることになってしまう。

全コンテンツを誘導リンクに置換えよう

 何より問題なのは、ほとんどの合併市町村で「トップページからトップページ」への誘導しか設置しないことである。 基本的には、旧サイトの各コンテンツを、新サイトの対応コンテンツへの誘導に置換えるべきである。 そうすれば、旧サイトへのリンクによって到達した利用者を適切に新サイトへ誘導することができ、少なくとも旧サイトがアクセス可能な状態にある間は、旧サイトが獲得していた「リンク資産」を継承することができる。

 旧サイトがアクセス不能になれば、静的なリンクは継承できない。 しかし、誘導リンクが有効である間に、リンク集やブックマークが修正されて「リンク資産」が継承できる形になることが、多少とも期待できる。 誘導リンクの有効期間が長ければ長いほど期待は大きい。 従って、誘導リンクへの置換えは、新サイトのコンテンツが整備された後、可能な限り速やかに行われるべきである。 そして、旧サイトは財政事情の許す限り維持するべきである。

 全てのコンテンツを誘導リンクに置換えるのは大変な手間だと思うかもしれないが、そんなことはない。 むしろ、この作業をコンテンツの適切な継承に結びつけることができる。 それは、適切に継承されていないコンテンツを含む旧サイトのページは誘導リンクに置換えることができないからである。 逆にいえば、置換えられずに残っているコンテンツは継承されていないことになる。 つまり、コンテンツ継承作業の工程管理に利用できるのである。

 旧サイトを、このような管理態勢においておけば、新サイトのコンテンツ整備が遅滞している場合でも、新サイトに旧サイトのコンテンツへのリンクを置くことによって、新サイトを暫定的に充実させることができる。 新サイトのコンテンツが整備できたら、対応する「旧サイトへのリンク」を外し、リンク先の旧サイトは新サイトへの誘導リンクに置換えていけば良いのである。


2005年3月3日初稿/2017年8月10日ホスト移転

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