インターネット上の博物館情報の安定性

Stability of Museums' Informations on the Internet


戸田 孝(滋賀県立琵琶湖博物館)

TODA, Takashi(Lake Biwa Museum)

日本博物館協会「博物館研究」誌2002年11月号掲載


 博物館の存在は地域の観光情報の目玉と認識されることが多いし、逆に博物館活動を活性化させる端緒として観光的に知名度を上げるところから出発するのは普通に使われる戦略である。 つまり、博物館活動(特に広報活動)には地域情報(特に観光情報)の発信という側面がある。

 ところで、地域情報の発信は、昨今のインターネットブームによって様相が大きく変わったものの1つだと言えるだろう。 かつては目的地の観光関係組織などに電話を何本もかけたりする必要があったものが、通信回線を通してどこの地域の情報でも容易に入手できるようになった。 検索エンジンを利用すれば、1つの施設や場所などについて多様な立場からの情報を比較検討したり、特定の観点から多数の施設などを比較検討することも簡単にできるようになっている。

 それにしても、「どんな施設が存在するのか」という基本的な二次情報が無ければ、検索を始めることさえできない。 つまり、情報発信のためには、利用を誘導するための入口となる「一覧表」が必要である。 インターネットブームの中心技術であるWWWでは、各施設の情報へのリンク(参照情報)を集めた「リンク集」が、この一覧表に該当する。

 ところが、この一覧表の一部が役立たずになる状況が頻発するようになってきている。これは、ネットワーク上の情報を特定する「URL(Unified Resource Locator)」が意外と頻繁に無効になって、いわゆる「リンク切れ」の状態になっているからである。 これは、実社会で「引っ越し」によって「住所」が変わってしまい、目的地へ行き着けなくなる事態が多発しているのに相当する。

 本論では、このように「URLの安定性」が確保できていない状況について、滋賀県内の博物館情報を例として実態の正確な把握を試みると共に、その原因について分析する。 そして、博物館情報を始めとする地域情報のインターネット発信をどのような考え方で進めるべきかについての提案を示す。

実態調査結果

 本論では、滋賀県内の博物館施設が行っているインターネット情報発信の実情を2000年8月中旬に調査した結果(戸田,2001)に基づいて、その後の状況を追跡調査した。原調査は180館を対象としていたが、そのうち住所録程度の情報しか無かった24館を除く156館の各々について、最も詳細で信頼性の高い情報が得られると考えられるページ群の入口ページ(または単独のページ)を選び、同じURLでアクセス可能かどうかを調査した。調査は2002年3月8日に実施した。 即ち、原調査から1年半余り経過した後に、同じURLが有効であったかどうかを検証したことになる。

 その結果、全体の27%にあたる42館について、同じURLでは情報にアクセスできなくなっていた(表1)。 そのうち全体の17%にあたる27館については、同じ情報(更新された新情報と見なせるものを含む)に別のURLでアクセスすることができたが、残る15館(全体の9.6%)については、相当する情報をインターネット上に見出すことができなかった。

 このように多数の情報が「リンク切れ」になってしまっているが、全ての事例について原因が明らかであった。 そして、その原因は以下の各章に示す5種類に分類することが可能であった。

 なお、調査時点では「リンク切れ」にはなっていなかったが、原因となる事情が既に潜在的に生じているため、早晩アクセスできなくなると予想されるものが5館ある。 これを加えると47館となり、全体の30%に及ぶ。

表1 滋賀県内156館に関する情報とURLの状況
館数割合
URLが有効で失効の兆候も無い 10969.9%
失効の兆候あり URL変更経過措置 31.9%
喪失可能性あり 21.3%
既に無効 異なるURLで残存 2717.3%
情報自体が喪失 159.6%

原因1:ニュース情報の期限切れ

 情報そのものが消滅した15館のうち4館については、元々「新館情報」あるいは一般的な「地域のニュース」として発信されていた情報である。 また、調査時点ではまだ発信が続いていたものの情報内容が「ニュース」であるものが2館あり、合計6館がこの例に該当する。

 元々が「期間限定」情報なのであるから、そのうち無くなってしまうのは已むを得ないというべきかもしれない。 実際、6館のうち4館については、同等以上の恒久的な情報が新たにインターネット上に載っており(うち3館は県博物館協議会の情報)、ニュース情報は「一時的なつなぎ」としての役割を終えたといえるだろう。

 しかし、残る2館のうち1館は情報量が圧倒的に劣るページしか残っていないし、他の1館は全く情報が見当たらなくなってしまった。 ニュース情報を発信しているのは、報道機関など外部の情報提供者であり、元々当該館が主体的に情報発信していたわけではないから、単に電子情報を発信しようという意識が無かったというだけのことなのであろう。 しかし、せっかくの状況を活かし切れなかったという意味では残念である。

原因2:登録型サイトの期限切れ

 情報そのものが消滅した15館のうち6館については、県教育委員会の生涯学習課が提供していた情報である。 この情報は2000年度末に一度更新されて掲載施設の総数は増えているのだが、その時に情報が無くなってしまった施設も多数ある。 そのうち、それが「最も詳細な情報」であった6館である。

 この情報は同課が各施設から情報の登録を受け付けて掲載しているので、更新登録が無かった施設は削除されたものと思われる。 更新しなかった理由については容易に調査できないが、少なくとも6館のうち4館については、同等以上の恒久的な情報が新たにインターネット上に載っているので、敢えて登録する必要も無いと判断したのかもしれない。 しかし、残る2館のうち1館は情報量が圧倒的に劣るページしか残っていないし、他の1館は全く情報が見当たらなくなってしまった。 情報発信は「継続しなければ効果が薄い」という意識が欠落しているのであろうか。

原因3:地域情報発信活動そのものの中止

 情報そのものが消滅した15館のうち残る5館は、地元の企業などが発信していた地域情報が、丸ごと無くなってしまったというものである。

 メセナ活動を始めた以上は安易に放棄せずに継続するべきだという考えもあるかもしれないが、内容を最新情報にきちんと維持する責任を継続し切れないという理屈もあるだろう。 中には、一旦「古い内容」であることを明示するURLに変更してから8ヶ月後に情報を消去した例もあり、ある意味で良心的な処置だと言えるかもしれない。

 それに、博物館側としても、外部の情報発信者に頼っているかのような状況に甘んじるべきではない。 その状況は「一時的なつなぎ」として有難く受け取っておいて、その間に自前の情報発信をきちんと整備するのが理想像であろう。 実際、5館のうち3館については、館独自の発信ではないが、所在市町村や県博物館協議会による情報がインターネット上に新たに載っており、方向性としては望ましい方へ進んでいると言える。 また、別の1館については、情報量は落ちるものの、既存の恒久的な情報が存在している。

 しかしながら、残る1館については、「企業博物館」に分類可能な「資料室」の情報が、設置企業のページから消えてしまったというものである。 これは、設置企業の姿勢そのものが問われるべき状況である。

原因4:ドメインの異動

 情報そのものは消滅していないがURL変更のためにアクセスできなくなった27館のうち10館は、ドメイン(図1)に関する異動を契機とする変更である。 また、旧URLが経過措置として有効になっていると考えられ、いずれアクセスできなくなると予想されるところが3館あり、合計13館がこの例に該当する。

 ドメインは、本来は情報を管理する組織に対応するものである。 しかし、小規模なインターネット発信を行う場合には、プロバイダ(インターネットへの接続を取り扱う業者)が管理するサーバ上に情報を置く権利を得て実施するのが普通であり、この場合にはサーバを管理するプロバイダのドメインとなる。

 この方法には、ドメイン取得手続きが不要であるなど手軽に情報発信が実現できる利点があるが、何らかの理由でプロバイダを変更すればURLも当然に変更になるという問題がある。 また、独自にドメインを取得すれば、発信主体がURLを見れば明らかという状況になり、広告戦略としても有利である。 さらに、情報発信が大規模なものに成長すれば、プロバイダのサーバの一部を借りるのではなく専用のサーバを確保する方が得策になってくるが、この場合には独自にドメインを取得した方が運営しやすい面がある。

 30館のうち29館は、プロバイダのドメインから独自ドメインへ変更したことによるものである(残る1館は地元郵便局が発信する地域情報で、郵政省のドメインから郵政事業庁のドメインへの変更)。 独自ドメインを取得すること自体は、情報発信活動自体の発展のためには已むを得ない「初期的な混乱」として容認するべきものであろう。本論で考えているURLの安定性の問題としても、当面の混乱をもたらす代わりに将来的な安定性が確保できるという意味では良いことかもしれない。

http://www.lbm.go.jp/toda/index.html
図1 「ドメイン」の説明
WWWページを指定するURLは、例えば上記のような形になるが、このうち下線を付した「lbm.go.jp」の部分を「ドメイン」と呼び、この場合は「琵琶湖博物館」という組織を意味する。 なお「www.lbm.go.jp」で、琵琶湖博物館が管理する特定の機器(サイト)を指定し、「toda/index.html」の部分が、そのサイト内の特定のファイルを指定する。

原因5:サイトの構造変更

 残る17館はサイト(ネットワークを構成する単位機器)内に情報をどのように置くかという構造を変更した結果である。 もちろん、その中には、已むを得ないうえに実害も少ないと思われる事例もある。 例えば、掲載情報量が増えたために情報を複数のファイルに分割した個人ページがある。 商工会のページで、個々の施設情報の内容も全面的に書換えるような大規模な更新を行った例もあった。 このような場合には、発信情報の向上を実現するために已むを得ない犠牲だという評価ができないわけでもない。

 しかし、このような情報内容の向上が認められるのは17館中8館に過ぎない。 他の9館については、ページそのものは全く何も変わっていなかったり、せいぜい色調などを変えた程度で、ただサイト内でのファイル配置が変わっただけである。

 最もひどい例は、

http://サイト名/office/culture/〜〜
というURLが
http://サイト名/kankou/culture/〜〜
に変わっただけというものであろう。 確かにこのサイトの場合、トップページからリンクをたどる際の分類が「施設情報」から「観光情報」に変わっている。 しかし、だからといって、ファイルを分類管理するディレクトリの名称を「office」から「kankou」に変える必然性は全く無い。 さらに言えば、「観光情報」という分類を設定したからといって「施設情報」という分類を廃止する必要も無い。 リンク構造は役所の部局構成のような「類別的分類」ではなく、同じ情報が複数の分類群に重複所属して当然なのである。

 そもそも、WWWは「World Wide Web」つまり「世界規模のWeb(蜘蛛の巣状のもの)」の略である。 すなわち、既定の並び順でしか使えない整然とした情報ではなく、関連付け(リンク)が複雑に設定されていて全体を見渡すとグシャグシャになっている情報群のことを指す。 従って、サイト内でもファイル管理単位を無視した縦横無尽のリンクが設定されていてこそ有益なWeb情報だと言える。

 2001年秋に運用を始めた滋賀県内某町のサイトでは、町立博物館の所在や入館料などの基本情報が施設情報のページに、その館の行事予定がイベント情報のページにと、別々に管理されている。 そのこと自体には何の問題も無いのだが、当初は双方の間にリンクが設定されておらず、基本情報を捜しあてた利用者がイベント情報に気付かずに去ってしまいかねない状況であった。 筆者が担当部署に指摘のメールを送ったところ数週間後の更新でリンクが設定されたが、このような管理単位を跨ぐリンクが設定されて当然ということが、各現場で常識として意識されねばならないだろう。

 純粋にファイル管理の都合による構造変更と推測されるものもあった。

http://サイト名/部課名/〜〜
というURLが
http://サイト名/kankou/部課名/〜〜
に変わっただけという例である。 しかし、この変更には果たして「切迫性」があったのだろうか? 単に「ちょっと便利」だからという程度の理由であれば、URL変更に伴うデメリットを見誤った処置と言わざるを得ない。

 安易な構造変更の背景に、「表紙ページさえ同じなら何をしてもよい」という意識は無いだろうか? しかし、利用者が「必ず表紙ページを経由する」と考えるのは誤りである。 実際、表紙ページを経由するアクセスは全体の1割にも満たないということが、琵琶湖博物館が業務的に行っているアクセス分析(滋賀県立琵琶湖博物館,2002)からも明らかである。 現実には個々の情報が独立して利用されているのである。

 この「独立利用」は、WWWが「Web」である以上は当然のことである。 あるページの情報が他のサイトの特定の情報と関連の深いものであれば、その情報へ直接にリンクするべきである。 つまり、「縦横無尽のリンク構造」は、サイト内に限られたものではない。 そして、WWW利用に欠かせない「検索ロボット」の技術は、このような直接リンクを自動設定する技術であるということも意識しておく必要があるだろう。

 直接リンクによって独立利用される以上は、下位ページといえどもURLの変更は利用上の深刻な障害であり、サイトの価値を落としめる行為である。

「情報更新」についての考え方

 以上の分析により、「リンク切れ」が生ずる原因が5種類に分類できることが判った。 そのうち最初の3種は、各館の情報発信に対する積極性が反映する問題であり、電子情報に対する現場および経営者の意識を高めていくことで解決できると考えられる。 次のドメイン異動を原因とするものは「黎明期の混乱」として容認できる。 しかし、最後のサイト構造変更を原因とするものには、明らかに不必要なものが多数見受けられ、各現場の誤った意識を払拭する努力が必要であろう。 その根底には、リンク構造を「類別的分類」と考える誤解や、個々の情報が独立して単独利用されるという認識の欠如があるようだが、それに加えて「情報更新(リニューアル)」に関する誤った考え方が影響している可能性も指摘しておきたい。

 適切に更新されていないインターネット情報は、飽きられてアクセスされなくなるという表現がよく使われる。 しかし、その表現が一人歩きして「何が何でも更新しなければ」という強迫観念になってはいないだろうか?

 「不必要な構造変更」を行ったサイトは、例外無く表紙ページを全面的に更新している。 そして、表紙ページからのリンク構造を大きく見直している。 しかし、リンクしている中身は特に更新されていない。 これが、「見掛け」を変えて「更新」っぽく見せることを目的とした「更新のための更新」だとすれば、深刻な問題である。

 情報更新というのは「情報内容」を新しくすることである。 そして、更新の適切性は決して「頻度」で決まるものではない。 「必要なときに迅速に」更新できているかどうかが重要である。 例えば、入館料や開館時間が変更になった場合に、発信情報も速やかに連動しているかどうかというのは1つの指標になる。 行事の結果を発信するような場合であれば、行事終了から発信までの経過時間が1つの指標になるであろう。

 そして、「変えるべきでないものは変えない」ことも重要である。 一口に「情報」と言っても、時間が経過すれば価値が失われるニュース情報もあれば、半永久的に同じ価値を有し続ける寿命の長い情報もある。 博物館が有する情報には、当然ながら「寿命の長い情報」が多いということにも注意が必要だろう。

 もちろん、表紙ページからのリンクを「使いやすく改良」すること自体は、有益な「二次情報の更新」である。 しかし、リンクの改良が目的なのであれば、リンク先の個々の情報の所在を連動して変える必要はない。 それは「変えるべきでないもの」に該当する。

 電子ネットワーク社会全体の傾向として、寿命の長い「静的な情報」というものの重要性が軽視される傾向があるように思われる。 しかし、もはやインターネットという手段自体が目新しいものだったブーム当初ではない。 長い期間にわたって利用可能な情報を、どのようにすれば確実に利用され続けるか、真剣に考えるべき時期に入っているのではないだろうか。 そのためには「変えるべきもの」と「変えるべきでないもの」の区別をしっかり見極めることが必要であろう。

謝辞

 本論は、2002年3月19日に大阪市立自然史博物館で開催された「第5回博物館・美術館の情報システムに関する研究会」のパネルディスカッションにおける話題提供としてまとめた論題を、同研究会での議論を踏まえて再構成したものである。 また、論題そのものは、同研究会を主催した博物館ホームページ推進研究フォーラム(MML)が運営するメーリングリストでの議論を契機として認識されたものである。 同研究会およびメーリングリストにおいて貴重な意見をいただいた参加者の方々に深く感謝する。

参考文献

戸田 孝(2001) 博物館のインターネット発信における「情報格差」―滋賀県内を例として―, 博物館研究,36巻,3号,30-33

滋賀県立琵琶湖博物館(2002) 通信網を利用した館外サービス, 琵琶湖博物館年報,6号,25-27


2002年11月14日WWW公開用初稿/2017年8月10日ホスト移転

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