「何でまたイタリア語を?」なんて思った人はいませんか? でも、そんなあなたも、音楽人である限りはイタリア語をずいぶん使っているんですよ。 そう、主な音楽用語は全部イタリア語なんです。 例えば、辞書にはこんなことが書いてあります。
forte(形容詞)強い、丈夫な、烈しい、強硬な
用例:vino forte 酸味の強いブドウ酒
piccolo(形容詞)小さい、僅少な、些細な、幼い、短い
crescere(動詞)成長する、発育する、増加する、増大する
最初はご存じの「フォルテ」、そう、音量指定の指示ですね。 2つめは、楽器名に使われています。 本体の楽器名が英語でも、その「小さいの」というのを呼ぶときには、イタリア語の形容詞を用いる習慣があります。 例えば「ピッコロ・トランペット」なんてのがそうですね。 Esクラのことを「ピッコロ・クラリネット」と呼ぶこともあります。 そして勿論、ただ単に「ピッコロ」と言えば「ピッコロ・フルート」の略ですよね。
え、3つめには見覚え無いって? うーん、まあ普通はそうかもしれません。 でも、みなさん学校の英語の時間にも苦労しているように、動詞というのはいろいろに語形変化(活用)します。 イタリア語の動詞は非常に派手に活用します。 フランス語を習ったことのある人は、それと同程度だと言えば見当がつくでしょう。
閑話休題(←横道にそれた話を元に戻すという意味)
crescereの「単純進行法」という活用形がcrescendo(クレッシェンド)となります。 ん、どこかで聞いたことがあるって? そう、音量を徐々に増大させるという指示です。
こんなふうに「難しい専門用語」のような音楽用語も、イタリアでは日常会話で使う普通の言葉なんです。 こういうふうに考えてみると、音楽用語も少しは楽しく覚えられるかもしれませんね。 NHKラジオでもイタリア語講座をやっています。 10月から新講座が始まっていますが、入門編の講師は妙に可愛い声をした女性です。 声優フリークには、もしかしたらお勧めかもしれませんね^_^
冗談はさておき、ちょっとしたクイズはいかがでしょうか。
イタリアの日常風景で見かける言葉を音楽用語の意味から類推して考えてみてください。
(1)駐車場の入口に「Adagio」と書いてありました。どういう意味でしょう?
(2)駐車場の出口には「Fermata」と書いてありました。どういう意味でしょう?
では、解答は次回のお楽しみということで……
前回、NHKラジオ講座の話を折角したので、10月号のテキストの入門編の部分から、見慣れた単語を拾い上げてみましょう。
ボーイ:Prego? | 御注文は? |
男性客:Due birre, per piacere. | ビールを2本ください。 |
ボーイ:Si, subito. | はい、ただいま。 |
最後に「subito」が出てきました。 テキストでは「ただいま」と意訳していますが、直訳すれば「直ちに」あるいは「スグに」となります。 音楽用語としては、「スグに」あるいは「急に」という意味で用いますね。
余談ですが、「due」が英語の「two」にあたります。 同系語に「duetto」があります。
Grazie, molto gentile | どうもありがとう、助かりました。 |
「molto gentile」を直訳すれば「とても親切に」となります。 「molto」はおなじみの修飾語ですね。 「molto vivace」「molto crescendo」などなど……
さて、前回のクイズの答えを出しておきましょう。
(1)「Adagio(アダージョ)」は、音楽用語では「ゆっくりと」ですね。
駐車場の入口に書いてあったのなら「徐行」の意味です。
和伊辞典で「徐行」を索くと「andare」(現在分詞が「andante(アンダンテ)」)などが出てきますが、「adagio」でも通じるようで、実際にそう書いてある例があるそうです。
(2)「Fermata(フェルマータ)」は、音楽用語では「拍の進行を止めること」ですね。
要するに「一時停止」です。
駐車場の出口にあれば「一旦停止」「止まれ」という意味になります。
こちらは、和伊辞典で索くとちゃんと「fermata」が出てきます。
おなじみの音楽用語を辞書的に解読してみましょう。
(参考資料:大学書林「イタリア語小辞典」)
インターネット向け補記(2007年1月) |
---|
「進行法」「過去分詞」といった動詞の活用形については、第19講の第6〜8回で詳しく扱っています。 |
素直に読めば「フォルテ・フォルテ」ですが、これは略語ではなくって記号的表現です。 forteという形容詞の「絶対最上級」(何かと比較して「一番〜だ」ではなく、とにかく「大変に〜だ」というニュアンス)を使ってfortissimo(フォルティシモ)と呼びます。 日本では「フォルテシモ」と発音する人が多いようですが、不正確な発音です。 イタリア人の前で言ったら、通じるけど笑われるでしょうね。
では、はどう読むのでしょうか? 絶対最上級を示す「-issimo」をもう1回つけます。 最後の「-o」だけではなく「-imo」をこの語尾に置換えてfortississimo(フォルティシシモ)となります。 時々「フォルテシモシモ」と言う人が居ますが、そんなイタリア語はありません。 同様に、はfortissississimo(フォルティシシシモ)です。 では、は…… やめときましょう。
言葉としては、sforzando(スフォルツァンド)はsforzare(スフォルツァーレ:無理強いする、余儀なくさせる、努力する)の、forzando(フォルツァンド)はforzare(フォルツァーレ:強制する、こじ開ける)の進行法現在形(副詞化)です。 いずれにしても「それまでの音楽の流れからすれば突然の強さを強引に押込む」というニュアンスになり、同じ結果になります。 新音楽辞典(音楽の友社1977)のフォルツァンドの項目には「強調された」と書いてありますが、 イタリア語としての意味から考えて納得できません。
同じです!(キッパリ)
意味としては「の強いの」ということで、 (フォルティシモ)とは直接関係ありません。 ということは、全体を絶対最上級にしてsforzandissimo(スフォルツァンディシモ)と読むことになるんでしょうか?
インターネット向け補記(2007年1月) |
---|
の読み方については、第19講第5回で詳しく扱っています。 |