通算第61回(2001年11月号)

演奏会が済めば、他の指揮者の担当曲を俎上に上げることも許されるでしょう…… というわけで、兼田敏「シンフォニックバンドのためのパッサカリア」の話題です。

第12講:定演曲目レビュー(第1回)

 「パッサカリア」が一種の変奏曲であることは、演奏会の曲目解説にも担当指揮者が書いた通りです。 変奏曲というのは「主題」となる旋律を発展させて行くものですが、多くの場合は主題の旋律そのものを種々に加工していきます。 しかし、この曲には主題そのものは大きく変えずに、専ら対旋律の加え方て遊ぶという特徴があります。

 ところで、担当指揮者はアナウンス用原稿に「主題」の旋律を「8〜10小節」と書いていたのですが、この曲に限った話としては、あくまで「10小節」とするべきです。 確かに曲の後半の練習番号(14)で3小節、(15)で2小節、(16)で1小節、各々縮めた形が登場しますが、これは「変奏」として縮めたものです。

 この3パターンで「主題」が徐々に長くなっているのは、要するに曲の最後に向けた盛り上げの一環としての細工です。 1小節短い(16)の後、(17)で完全な形が出るかと思いきや、中途半端な尻切れトンボにしての肩透かし、そして(18)でやっと完全な形の主題が、独立した対旋律はベースラインのみという「主題を強調した」形のフォルティシモで登場します。 そして、これが主題が完全な形で奏される最後になります。 最後の(19)では、主題の末尾を変えて終止形に持って行っているからです。

 ところで、いま(14)(15)(16)……を「練習番号」と呼びましたが、実はあまり正確な表現とは言えません。 練習番号というのは文字通り練習用の番号ですから、楽曲が音楽的に区切れるところに打つべきものです。 ところが、この曲の番号は時々音楽的な区切りを外しています((5)と(8)が典型的)。

 実はこの番号は「主題の登場回数」なのです。 主題そのものではなく対旋律で遊ぶという方針は、対旋律の区切りと主題の区切りをズラせるという遊びを許容することになります。 言い替えると、音楽的な区切りを主題が跨いでしまうという状況を作って遊んでいるわけです。 その結果が「音楽的な区切り」と「番号」のズレになるわけです。

 ちなみに、この「ズレ」の問題は、担当指揮者が決まる前の試し吹きの段階で、偶々その日の合奏を担当した指揮者が指摘してるんですが、覚えてましたか?



通算第62回(2001年12月号)

 前回に続いて、他の指揮者の担当曲を採り上げます。 今回はデュカ「魔法使いの弟子」です。

第12講:定演曲目レビュー(第2回)

 「魔法使いの弟子」はディズニー映画「ファンタジア」のメインの音楽劇として有名です。 映画を見たことが無い人も、師匠の帽子を得意げにかぶっている、弟子役のミッキーマウスの姿には見覚えがあるだろうと思います。

 ところで、ディズニー映画で有名になった物語では、どこまでオリジナルでどこからディズニーの創作部分かが混乱されて一般に理解されていることが多いのです。 有名なところでは、シンデレラが城まで乗って行った馬車があります。 この馬車が「カボチャ」であるという部分はディズニーの創作なんですね。

 今回、担当指揮者は曲目紹介を古文の入試問題仕立てにしてプログラムに載せましたが、これは全面的にディズニー映画に準拠しています。 もちろん、ディズニーの創作部分が面白いからそうしたわけですが、一応オリジナルとの差異は認識しておきましょう。

 デュカが直接準拠したのは、ゲーテの物語詩を仏語訳した散文だとされています。 そしてゲーテの詩も、ルキアノス(2世紀にギリシャで活躍した作家)の作品を元にしているとか、フランクフルトの民話にあるとか、元を正せば中国起源だとか、いろいろな説があります。 が、とりあえずゲーテの作品と比較してみるならば、

が、ディズニーの創作として大きいことが判ります。

 ゲーテの原詩は、それほど難しいドイツ語ではありませんし、和訳も出ています。 ざっとインターネットで探してみたところでは、以下の2件がありました。

万足満「魔法使いの弟子―評釈・ゲーテのバラード名作集」 三修社 20cm,252+45pp. ISBN4-384-04715-0 絶版
「ゲーテ全集1」潮出版社 20cm,477pp. ISBN4-267-001707 ¥6311(税別)
京都府立図書館・向日市立図書館で前者所蔵、大津市立図書館で後者所蔵、滋賀県立図書館・草津市立図書館で両者所蔵を確認しました

原詩は前者の巻末付録に出ています。訳文は後者の方が原詩に忠実です。 前者は日本語の詩として成立するように若干アレンジしてあります。



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