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ベクトルの調和微分

ベクトルの調和微分の元々の意味は次のようなものである。

歴史的(直感的)定義:

ベクトル場 $\hbox{\rm\bf v}$に対して、直交直線座標での $\hbox{\rm\bf v}$の 成分viの各々の調和微分 $\Delta v_i$を成分とする ベクトル場を $\hbox{\rm\bf v}$の調和微分と呼び、 $\Delta\hbox{\rm\bf v}$と書く。

この定義が座標変換に対して不変であることは別に証明せねばならない。 そのためには、この定義で得られるベクトル場が既に(座標変換不変であると) 知られている微分演算の組合せで表されることを示せばよい。 これがうまくいけば、求まった微分演算の組合せを「どんな座標系でも使える 新たな定義」として採用することができる。これは次のようになる。

微分演算子による定義:

ベクトル場 $\hbox{\rm\bf v}$に対して、

\begin{displaymath}\Delta\hbox{\rm\bf v} \mathrel{\mathop=\limits^{\scriptscript...
...athop{\hbox{\rm rot}}{(\mathop{\hbox{\rm rot}}\hbox{\rm\bf v})}\end{displaymath}

と書いて $\hbox{\rm\bf v}$の調和微分と呼ぶ。

直交曲線座標においてこの定義の右辺を展開して整理すると次のようになる。

\begin{eqnarray*}(\Delta\hbox{\rm\bf v})_i &=&
\frac{1}{g_i} \frac{\partial }{\...
...ac{\partial }{\partial x_l} \left(\frac{\eta}{g_l}\right)\right)
\end{eqnarray*}


第2の表現は若干複雑になっているが、 (成分別調和微分)+(補正項)という形に整理し、 補正項の部分は( $\hbox{\rm\bf v}$の成分の微分を含む項)+ ( $\hbox{\rm\bf v}$の成分そのものを含む項)という形にまとめたものである。

:一般に直交曲線座標では $\hbox{\rm\bf v} = (u,v,w)$に対して $\Delta\hbox{\rm\bf v} = (\Delta u,\Delta v,\Delta w)$ではないから $\Delta\hbox{\rm\bf v}$という表現を使うべきではないと書いてある 教科書があるのだが、賛成しかねる。むしろ、 $\Delta\hbox{\rm\bf v}$という 表現を見て「成分毎の調和微分だ」と考えることがおかしいのであり、 それに対して注意を喚起するべきである。 $\Delta\hbox{\rm\bf v}$は明らかに「ベクトル場に対する演算」の表現形式であって 「成分に対する演算」の表現形式ではないから、 上記の「歴史的定義」のようにある座標系で一旦定義したら、 どんな座標系を使おうとベクトルの「実体」として それと同じものを指すと解釈するべきである。

なお、 $\Delta\hbox{\rm\bf v}$を使うべきでないとする教科書では その代りに $(\nabla\cdot\nabla)\hbox{\rm\bf v}$という表現を使っているが、 これはますますおかしい。 $(\nabla\cdot\nabla)$の方が 「成分別 $\mathop{\hbox{\rm div}}\cdot\mathop{\hbox{\rm grad}}$」という意味合いのイメージを 強く残している表現だからである。

微分幾何学では$\Delta$を一般化したもの(Laplace-Beltrami演算子と呼ぶ)が 定義されている。ベクトルの調和微分はこの定義に見合っている。 このことからしても、コソコソせずに堂々と $\Delta\hbox{\rm\bf v}$という表現を 使って良いと言える。



Ichiro Tamagawa 平成11年9月24日