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スカラーの移流

移流の意味は流体力学の教科書の最初の方に必ず出てくるから 詳しくは述べないが、若干の補足をしておく。

移流をEuler的立場から見ると、 「元々そこにあった値とはいくらか異なるものが 上流から流れて来ることによって感じられる変化」である。 一方、Lagrange的立場から見ると、「今居る場所とはいくらか値が異なる場所へ 流れに乗って移動することによって感じられる変化」である。 少し考えるとわかるが、この二つの立場の移流は符号が逆である。 前者は上流に大きなものがあるときに正であり、 後者は下流に大きなものがある時に正である。

この文章では後者の立場をとる。あまり積極的な理由は無い。 単に数学的表現が流速と勾配の内積そのものになって負号がつかず、 本質的でないややこしさを避けられるというだけの理由である。

なお、普通「移流」という言葉は「流速」で「単位時間当り」に流されるという 物理的意味を負っているが、微分演算としてはそんな必要は無い。 例えば、「流速」の代りに「微小変位」を持ってくれば、 その変位によって場がどれだけ変化したように感じるかという意味にもなる。

さて、スカラーの移流に関しては曲線座標だからといって それほど難しく考える必要は無い。「単位距離当りいくら変化する方向へ いくら進んだから結局どれだけの変化だ」という考え方で、 単純に「流速と勾配の内積」で良いことがわかる。

\begin{displaymath}\mathop{(\hbox{\rm\bf V}\cdot\mathop{\hbox{\rm grad}})}f = \frac{V_l}{g_l} \frac{\partial f}{\partial x_l}\end{displaymath}



Ichiro Tamagawa 平成11年9月24日