「ホームページ」という日本語をめぐって

 「ホームページ」という用語を日本語では変な意味に用いることは、 “「ホームページ」さまざまな用例集”にも 収録されている通りである。 そして、これは日本語圏と韓国語圏だけの現象であり、 例えば中国語圏では見られない現象のようである。 なお、ハングルでは「홈 페이지」と書いて 「hom pe-i-ji」(「p」は激音)と発音する。 また「홈피」(hom-pi)という略語も使われる。

日英での「ホームページ」の語感差

 日本語における「ホームページ」の最も一般的な用法は、 “「ホームページ」さまざまな用例集”の大分類(D)に属する用法、 即ち、WWWページのことを全て「ホームページ」と呼んでしまう用法であろう。 一方、英語の「homepage」の用法は 専ら大分類(A)(B)に属するもの、 即ち「ブラウザのスタートアップページ」ないし 「WWWプレゼンテーションの入口ページ」であり、 それ以外の用法は、今のところ確認されていない。

 これは、「homepage」という言葉を使うに際して、 その構成要素である「home」という言葉を意識しているかどうか という差異であると思われる。 日本語の中で「ホームページ」という言葉を使う場合、 全体を「1つの外来語」として認識していると思われ、 その構成要素である「ホーム」の意味について逐一詮索しないであろう。 しかし、英語を使う場合には、極めて日常的な用語である「home」を その語義から大きく外れた意味に用いることに対しては 大きな抵抗感があるものと思われる。

 ちなみに「homepage」を冗談で「家面」「家頁」などと訳す人が居るようだが、 この訳には「home」という言葉のニュアンスを 正しく捉えられていないという側面もある。 「home」を「家」と訳すのは間違いではないが、かなりニュアンスにズレがある。 「家」に対応し得る代表的な英単語としては、次の3つを挙げることができるだろう。

home家庭
family家族
house家屋
つまり「人の集団」を意味する「family」や「建物」を意味する「house」に対して、 「home」には「“ただいま”と言って帰る場所」というニュアンスがある。 そして、それは「家」とは言えない場所であっても構わない。 「帰る場所=出発点」という意味が「home」という言葉の本質である (野球の「ホームベース」の意味を考えてみると解りやすいだろう)。 そして、「homepage」という表現の中の「home」は、 専ら「家」という意味から離れた意味なのである。

 話を戻すと、「home」という言葉の 「出発点」というニュアンスが意識されている限り、 そのニュアンスを無視した 大分類(D)の意味に 「homepage」という言葉を使うことは有り得ないことになる。

 日本語というのは、外来語をそのまま取り込んで使えるように 約二千年に渡って淘汰されてきた言語である。 そのうえ、外来語を自由自在に取り込む行為は、近年ますます加速しさえしている。 外来語をそのまま取り込むという行為は、韓国(南朝鮮)でも頻繁に行われる。 (同じ朝鮮語でも、北朝鮮では西洋語を漢訳して使う傾向があるらしい)。 それに対して中国語圏では、西洋語を意訳して使う傾向がある。 これは、表音文字が存在せず、 下手に音訳すると変な「意味」が発生してしまうからであろう。 ましてや、同じ西洋語圏であれば、英語表現を無理無く直訳しやすいし、 英語のまま使う場合でも、元の英単語の意味を意識して使われる傾向が強い。 以上のような理由で、日本語圏と韓国語圏でのみ、 「home」という言葉のニュアンスを無視した用法が普及しているのではないか と考えられる。

「ホームページ」という日本語は定着しているか?

 “「ホームページ」さまざまな用例集”の大分類(A)(B)以外の意味の「ホームページ」は、 本来は「誤用」から発生した「俗語」であることに異論は無いであろう。 しかし、現状において、 これが相変わらず「誤用・俗語」であるかどうかは別問題である。 個人的には、現在でも「誤用・俗語」であると考えるべきだと思うが、 既に「和製英語」として定着しているという意見もある。 「和製英語」という用語は、狭義には 「本来の英語に無い語彙を類推等によって作りだしたもの」 という意味に限定して用いることもあるが、 ここでは「本来の英語の語義を離れて新たな語義を持つようになったもの」 まで含めた意味で使っている。

 実は、NHKが 「ホームページ」を「和製英語」として認知している。 私が気付いたのは2000年2月ごろのことである。 語学講座において、「web site」あるいは「web page」という英語表現を 「ホームページ」と訳して説明しているのである。

 そして、NHKの社内において、この方針を徹底しようとしたらしき形跡がある。 その形跡とは、この方針を誤解して不適切に適用してしまった と思われる事例の存在である。 具体的には、英語トップページの<TITLE>タグで挟まれた内容 (多くのブラウザでウィンドウの表題に使うもの /以下、単に「TITLE」と呼ぶ)である。 2000年11月28日の時点で英語トップページのURLは 「http://www.nhk.or.jp/index-e.html」であったが、 そのTITLEは、そのページが「WebSite」であるということを前提にした表現であり、 結果的に、「英語版のトップページ(ウェルカムページ)」だけで 1個のWebサイトを構成していると主張していることになっていた。

 おそらくこれは、日本語で表現すると「ホームページ」になることから、 それに「ホームページ=WebSite」という等式を 機械的に適用したものだと推測できる。 この例の場合、明らかに分類「B1」に属する用法であるから、 英語でも「home page」と表現して構わない事例だった。 少なくとも「web site」よりは「home page」の方が適切な表現だった。

 流石に、この状況をいつまでも放置はしなかったようで、 この文章の初稿執筆時点では、 英語トップページ「http://www.nhk.or.jp/english/」のTITLEは 「NHK ONLINE English」である。 但し、これは日本語トップページの TITLEを「NHKオンライン」としたことに連動したものと思われるので、 間違いに気付いて訂正したのではなく、 別目的のバージョンアップに連動して直ってしまったということなのかもしれない。

「ホームページ」はダサい表現?

 “「ホームページ」さまざまな用例集”の大分類(D)には、 D3〜D5のような「日本語表現に独自の限定的語義」を求める傾向が見受けられる。 そして、そこに共通して見出される傾向は、 「ホームページ」は「個人的な」「小規模な」「組織的にまとまっていない」 「ダサい」「スマートでない」「古臭い」というイメージである。 そして、それに対置される表現は「ウェブ」や「ブログ」である。

 あくまで推測だが、このイメージの根本には、 「ホームページ」という表現が国際的に通用しない ということがあるのではないだろうか? 少なくとも、海外まで含めてバリバリにNetSurfingをしている者にとって、 WWWは「ウェブ」ではあっても「ホームページ」では有り得ない。 その感覚がベースになっている可能性は否定できないのではないかと思う。

 ちなみに、「ホームページ」を「ブログ」に対置する用法は、 プロバイダが業務案内を整備する中で発生したのではないかという見解がある。 つまり「ホームページ公開用ディスクスペース提供」 「ホームページ作成支援」などの、ブログ普及以前からのサービスと並列して 「ブログ機能提供」を並べたのが起源だという説である。 納得できる説ではあるが、今のところ明瞭な直接証拠は見出せていない。


「ホームページ」という用語が何故不適切であるかを、 簡潔に説明する文書を作ってみました。 ご利用いただければ幸いです。


2005年9月12日WWW公開用初稿/2007年1月26日最終改訂/2014年1月23日ホスト移転

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