通算第269回(2019年3月号)

 春の演奏会で採り上げる「ウェストサイド物語」について簡単に見てみましょう。

随時講座:合奏中の話題から(その30)

 ウェストサイド物語については第20講第1回(2006年6月)で「I feel pretty」の歌詞を採り上げ、第14講第8回(2002年12月)で「ロメオとジュリエット」の映画化に絡んで題名だけコメントしていますが、作品自体に着目したことはありませんでした。

 イタリア北部に今も存在する都市を舞台に、実は16世紀末イギリスの風俗に基づいて作られた作品が「ロメオとジュリエット」ですが、その舞台を現代アメリカに移したもの、というのが「ウェストサイド物語」の大雑把な説明です。 舞台を現代アメリカに移したという意味では1996年版の映画(レオナルド・デカプリオ主演)もそうですが、こちらは科白がシェークスピアの原作そのまんま(画面は全然違うのに?!)なのに対して、「ウェストサイド物語」は科白も登場人物も新たに作り直しています。

 もちろん、対立する集団に属する恋人たちの悲劇という「ロメオとジュリエット」の基本設定は踏襲していますし、原作の主な登場人物のほぼ全員に対して概ね対応する役回りの人物が登場します。 現代アメリカということで、原作の名門貴族の「家」同志の対立を、ニューヨークにたむろする不良少年グループの縄張り争いに変えています。 もちろん、背後には民族対立があります。 ジュリエットに相当するマリアはプエルトリコ系移民、ロメオに相当するトニーはポーランド系移民です。

 実をいうと「ロメオとジュリエット」自体、シェークスピアが全く一から創作したものではなく元ネタがあるのですが、作中で何ヶ月も経過する物語だったのをシェークスピアはたった5日間にしてしまいまいした。 そして「ウェストサイド物語」はもっと短くて、物語開始から悲劇の結末まで30時間余りです。 尤もこれは、原作後半の「ジュリエットの偽装自殺→ロミオが信じて後追い」という経緯を「マリアが殺されたという嘘→トニーが信じて自暴自棄」に変えたのが大きいと思われますが。

 元々はミュージカル作品ですが、映画化されたのを見た人の方が圧倒的に多いでしょう。 一部に音楽の順序を替えたりしている部分があるようですが、基本的にミュージカルをそのまま映画化しているようです。



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