旧暦で実施する年中行事

 東アジアで正月を専ら新暦で祝うのは日本だけだという話があります。 確かに、中国などでは、新正月よりも旧正月(春節)の方が盛大ですね。

 日本では、新暦(グレゴリウス暦)の採用が明治維新の流れの中で強引に行われ、 しかも教育制度や行政制度を近代的に整備していく時期と重なったことを利用して 強権的な定着が図られたことなどにより、 各種の年中行事も新暦での実施が徹底されました。

 新暦は旧暦よりも約36±15日ほど先行します。 ですから、旧暦の季節感に合わせた行事を新暦で実施すると、 季節感が平均1ヶ月以上ズレてしまいます。 典型的なのは、まだまだ春になってないのに、正月が「新春」であることですね。 桃の節句(3月3日)や端午の節句(5月5日)も、 旧暦なら必要な植物(桃や菖蒲)が露地物で調達できるのに、 新暦に合わせるために温室栽培せねばならないなんていう 馬鹿げた事態が起っているようです。 七夕の季節感も新暦ではメチャクチャなんですが、 これは別ページにまとめました。

 一方で旧暦で「何月何日」とは決まっていない年中行事があります。 立春・春秋分・冬至などの「二十四気」に 基づく日程で実施される行事が代表的です。 このような行事は、一般的には古来の日付で行われることが多く、 昔通りの季節感で行われています。

 その結果、本来は同じ季節に行われるハズの行事が 1ヶ月ズレてしまうという事態も発生しています。 代表的なのは、立春の前日に行われる「節分行事」ですね。 立春は本来は年始の時期に来る期日であり、 節分行事は年始行事の一環なのです。 しかし、その感覚は現在では薄れてしまっていますね。

 そんな中で、頑なに「旧暦の日付」で行われている行事があります。 それは8月15日の「十五夜」です。月の形が本質的に関係しているから、 新暦では実施不可能というわけですね。 十五夜ほどメジャーではありませんが、 9月13日の「十三夜」も仲間ということになります。 逆に言うと、月の形に積極的に結びつく行事以外は 新暦基準が一般的になってしまっているわけです。

 ……なんてことを書くと、 「お盆も旧暦が一般的じゃないか」という声が 出てくるかもしれませんが、それは違います。 一般に「旧盆」と呼びますが、よく考えてみると「新暦の8月15日」ですね。 つまり、旧暦で日程を決めているわけではないのです。

 「盂蘭盆会」(通称「お盆」)は、本来は7月15日の行事です。 これを現代日本では「新暦の月遅れ」で実施するのが一般的になっています。 これは「盆休み」に「夏休み」の性格が昔からあったため、 季節感を変えることに実害があったからではないかと思われます。

 この事実から当然に帰結されることがあります。 それは、「月遅れ」にすれば、 新暦準拠でも季節感を損なわずに済むということです。 だったら、盂蘭盆会に限らず、桃の節句を4月3日、端午の節句を6月5日と、 全部月遅れで実施してしまえば良いと思うのですが、そういう気運はありません。 「季節無視」が当たり前になってしまったのでしょうか?


2002年6月26日WWW公開用初稿/2012年7月17日ホスト移転

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